多布施踏切――鳴り終わらない警報機
佐賀市内にある多布施踏切には、昔から妙な噂があった。 深夜、誰もいないはずの踏切で、突然警報機が鳴り始める。 しかし、電車は来ない。 そして警報音が止まったあと、線路の向こう側に「人が立っている」のだという。 ある夏の夜、私は友人と二人で、その噂を確かめに行った。 午前二時過ぎ。 踏切の周囲には人影も車もなく、聞こえるのは虫の声だけだった。 「……何も起きないな」 友人がそう言った瞬間だった。 カン、カン、カン――。 突然、警報機が鳴り始めた。 私たちは反射的に踏切から離れた。 だが、線路を見ると電車が来る気配はない。 遠くまで続く線路には、誰もいなかった。 「故障じゃない?」 そう言って友人が笑った。 そのとき、踏切の向こう側に人影が現れた。 白っぽい服を着た人物だった。 線路のそばに立ち、こちらをじっと見ている。 「……誰だ?」 友人が声をかけた。 人影は答えなかった。 ただ、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。 ところが――。 踏切の警報音が突然止まった。 同時に、人影も消えた。 「……帰ろう」 私たちは何も言わず、その場を離れた。 数日後。 友人から電話がかかってきた。 「この前の写真、見たか?」 私はスマートフォンに残っていた写真を確認した。 踏切を撮影した写真の一枚。 そこには、私たち二人の後ろに立つ白い人影が写っていた。 しかし、本当に怖かったのはその写真ではなかった。 撮影時刻を確認すると―― 午前2時17分。 その時刻、私たちは二人とも踏切の向こう側を見ていた。 つまり写真を撮った人物は、 私たちの後ろにいた。 それ以来、友人は多布施踏切の近くを通らなくなった。 そして今でも、深夜に踏切の警報音を聞くと、必ずこう言う。 「……あの音、電車を知らせてたんじゃない。」 「誰かが、こっちに来ることを知らせてたんだ。」