観月山公園――誰もいない展望台
夜の観月山公園は、昼間とはまるで別の場所だった。 街の明かりが遠くに見えるだけで、園内に入ると急に音が消える。 ある秋の夜、友人と二人で公園を訪れた。 時間は午前0時を少し過ぎた頃。 「展望台まで行ってみようぜ」 友人にそう言われ、二人で坂道を上っていった。 街灯はところどころにあるものの、木々に囲まれた場所では光がほとんど届かない。 しばらく歩いていると、前方に小さな展望台が見えてきた。 ところが―― そこに誰かが立っていた。 黒っぽい服を着た人影だった。 背を向けたまま、夜景を見ているように見える。 「先客いるじゃん」 友人がそう言った。 だが、近づいてもその人物は一度も動かなかった。 「こんばんは」 声をかけても反応がない。 妙な違和感を覚えながら、さらに数メートル近づいた。 その瞬間だった。 人影が、ゆっくりと振り返った。 顔は――見えなかった。 街灯の光が当たっているはずなのに、そこだけ黒く塗りつぶされたようになっていた。 そして突然、 「……まだ、帰らないの?」 低い声が聞こえた。 二人とも何も言えなくなった。 次の瞬間、展望台の照明が一度だけ消えた。 真っ暗になった。 慌ててスマートフォンのライトを点ける。 そして光を向けた。 そこには、誰もいなかった。 「……今の、何だった?」 友人の声が震えていた。 二人は急いで坂道を下り始めた。 ところが、背後から妙な音が聞こえてきた。 カン……。 カン……。 まるで誰かが、金属製の手すりを指で叩きながら近づいてくるような音。 一度。 また一度。 音は少しずつ近づいてくる。 振り返ることはできなかった。 そのまま無言で歩き続け、ようやく駐車場まで戻った。 車に乗り込み、エンジンをかける。 友人が震える手でスマートフォンを確認した。 「……なあ」 画面を見せられた。 さっき展望台で撮った写真だった。 そこには二人しか写っていない。 ――はずだった。 写真の奥。 木々の間に、黒い人影が立っていた。 しかも、その人物はこちらを見ている。 さらにおかしいことに、その影は―― 二人が公園を出た後に撮影した写真にも写っていた。 しかも、写真を撮るたびに少しずつ近づいている。 最後の一枚。 車のフロントガラス越しに撮った写真には、 後部座席のすぐ後ろに、黒い顔が写っていた。 その夜以来、二人は観月山公園には二度と近づいていない...