西公園――夜の展望台に立つ男
これは、福岡に住む知人から聞いた話だ。 その人は以前、仕事が終わったあとに車で西公園へ向かうことが何度かあったという。 昼間なら桜や博多湾の景色を楽しむ人も多い場所だが、深夜になると雰囲気が一変する。 街の明かりから少し離れた園内は思った以上に暗く、木々の間から見える空も黒かった。 ある日の夜、知人は一人で展望台まで歩いていった。 時間は午前一時を少し過ぎていた。 「こんな時間に誰もいないだろう」 そう思いながら階段を上っていると、上の方から声が聞こえた。 「……まだ来ないのか」 男の声だった。 知人は一瞬、足を止めた。 こんな時間に誰かいる。 しかも、誰かを待っているような言葉だった。 少し怖くなったものの、酔っ払いか、夜景を見に来た人だろうと思い、そのまま階段を上った。 そして展望台に出た。 誰もいなかった。 ベンチにも、柵の近くにも人影はない。 ただ、博多湾の向こうに街の明かりが見えていた。 「……気のせいか」 そう呟いた瞬間だった。 背後から、 「遅かったな」 と、はっきり声がした。 知人は振り返った。 そこには、一人の男が立っていた。 年齢はよく分からない。 暗い服を着ていて、顔も影になっている。 ただ、妙だった。 男は展望台の入口に立ったまま、こちらをじっと見ている。 「すみません……?」 知人が声をかけても返事はない。 男はしばらく黙っていたが、突然、海の方を指差した。 そして、 「まだ来てない」 と呟いた。 知人には意味が分からなかった。 その瞬間、海から強い風が吹いた。 木々が一斉に揺れ、展望台の周囲がざわざわと鳴った。 知人は反射的に目を閉じた。 そして風が止んだあと、もう一度男を見る。 ――いなかった。 「……?」 さっきまで確かにそこにいた。 入口まで走って確認したが、階段を下りていく音も聞こえない。 知人は急に怖くなり、急いで車へ戻った。 その日は何も起きなかった。 ところが翌朝、スマートフォンに一枚の写真が残っていることに気づいた。 昨夜、展望台で撮った覚えのない写真だった。 画面には、暗い博多湾が写っていた。 そして写真の端。 木々の間に、一人の男が立っている。 知人はその写真を見た瞬間、背筋が凍った。 男は、昨夜展望台で会った人物と同じ服を着ていた。 だが、それ以上におかしかった。 写真の中の男は、海ではなく―― カメラを持つ知人の方...