鍋島駅――窓のない廃屋
その廃屋は、鍋島駅から少し離れた細い道の先にあった。 周囲には普通の住宅が並んでいるのに、そこだけ時間が止まったように古びている。 木造二階建ての家で、庭には雑草が腰の高さまで伸び、外壁はところどころ剥がれていた。 そして、何より妙だったのが――二階の窓だった。 窓ガラスが、すべて内側から板で塞がれていた。 ある夜、友人と鍋島駅で別れた帰り道、私はその廃屋の前を通った。 時計を見ると、午前0時を少し過ぎていた。 そのときだった。 「……コン、コン」 廃屋の中から、何かを叩く音が聞こえた。 私は足を止めた。 もう一度。 「コン……コン……」 まるで、誰かが家の中から窓を叩いているような音だった。 しかし、二階の窓は板で完全に塞がれている。 不思議に思いながら歩き出そうとした、その瞬間。 二階から、 「……帰って」 小さな声が聞こえた。 私は思わず振り返った。 当然、窓には誰もいない。 それでも気味が悪くなり、急いでその場を離れた。 翌日、近所に住む知人にその話をすると、少し困った顔をされた。 「その家……昔から空き家だったよ」 「昔から?」 「うん。ずっと誰も住んでない。確か、二階の窓なんて最初からなかったと思う」 その言葉を聞いて、私は背筋が冷たくなった。 窓がなかった。 では、昨夜、自分が聞いた「窓を叩く音」は一体どこから聞こえてきたのか。 それから数日後。 私はまた、その廃屋の前を通ることになった。 昼間だったので、以前ほど怖くはなかった。 ところが―― 廃屋を見上げた瞬間、私は立ち止まった。 二階の窓を塞いでいた板が、一枚だけ外れていた。 その奥は真っ暗だった。 そして、その暗闇の中に、 白い顔が見えていた。 顔だけだった。 身体は見えない。 まるで窓の向こう側から、誰かがこちらを覗いているようだった。 私は慌てて目を逸らし、その場を離れた。 その日の夜。 自宅で眠っていると、 「コン……コン……」 という音が聞こえた。 最初は気のせいだと思った。 しかし、音は少しずつ近づいてきた。 窓からだった。 「コン……コン……」 私は布団の中で動けなくなった。 すると今度は、 「……帰って」 あの廃屋で聞いた声がした。 その声は、窓の外からではなかった。 自分の部屋の中から聞こえた。 恐る恐る布団から顔を出した。 誰もいない。 ただ、部屋の窓ガラスに、 内側...