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垣生山公園――夜景の中に立つもの

愛媛県松山市にある垣生山公園。 昼間は眺めのいい場所として知られ、天気の良い日には遠くまで街並みを見渡すことができる。 だが、夜になると人の気配は一気に少なくなる。 これは、ある男性が友人と二人で、深夜の垣生山公園を訪れたときの話だ。 その日は午前一時を過ぎていた。 「こんな時間に来る場所じゃないな」 車を停めた友人が、冗談半分にそう言った。 二人は車から降り、暗い道を歩いて展望できる場所へ向かった。 周囲には木々が生い茂り、街灯の少ない場所では、数メートル先すら見えない。 それでも、少し開けた場所まで来ると、松山市街の明かりが目の前に広がった。 二人はしばらく夜景を眺めていた。 そのときだった。 友人が突然、 「……あそこ、誰かいる?」 と言った。 指差した先は、二人が来た道の途中。 暗闇の中に、何かが立っていた。 人のようにも見える。 しかし、微動だにしない。 「人じゃない?」 そう言って男性がスマートフォンのライトを向ける。 すると、その瞬間。 そこにいたはずのものが消えた。 「……いない」 二人は顔を見合わせた。 見間違いだと思い、そのまま展望場所に残った。 ところが、数分後。 今度は友人がスマートフォンを見ながら、妙な顔をした。 「なあ……これ、変じゃない?」 画面には、さっき撮影した夜景の写真が表示されていた。 一見すると何の変哲もない。 街の明かり。 黒い山。 そして空。 だが、写真の端。 木々の間に、小さな白いものが写っていた。 拡大してみる。 それは、人の顔だった。 「これ……俺たちの後ろじゃないか?」 二人が振り返る。 当然、誰もいない。 だが、そこで男性は気づいた。 さっきまで聞こえていた虫の音が、完全に消えていた。 森の中が異様なほど静かだった。 「もう帰ろう」 友人がそう言った。 二人は急いで車へ戻った。 そして車に乗り込み、エンジンをかけた。 そのとき。 後部座席から、 「コン……」 と、小さな音がした。 二人とも固まった。 「……今、何か聞こえたよな?」 返事はない。 もう一度、 「コン……コン……」 今度ははっきり聞こえた。 まるで誰かが、車の内側から窓を叩いているような音だった。 男性が恐る恐るバックミラーを見る。 後部座席には誰もいない。 しかし―― 後部座席の窓には、内側から押しつけたような手形が一つ残っていた。 「……これ、誰...

常三島公園――夜のベンチに座る男

徳島市の常三島公園。 昼間は学生や近所の人が行き交う、ごく普通の公園だ。 だが、夜になると人通りは一気に減る。 これは、ある大学生が体験した話だ。 その日は夜遅くまで大学に残っていた。 時計を見ると、午前0時を少し過ぎている。 友人と別れ、一人で帰ろうとしたときだった。 「……少し休んでから帰るか」 そう思い、公園のベンチに腰を下ろした。 辺りは静かだった。 遠くを走る車の音。 木の葉が擦れる音。 それ以外には何も聞こえない。 スマートフォンを見ながら数分ほど過ごしていると、ふと視界の端に人影が入った。 公園の反対側。 街灯の下に、男が立っていた。 黒っぽい服を着ている。 年齢はよく分からない。 ただ、こちらを見ているようだった。 「……誰だ?」 少し気になったものの、深夜の公園で知らない人間をじっと見るのも嫌だった。 彼はスマートフォンに視線を戻した。 すると―― 「……まだ、いる」 小さな声が聞こえた。 顔を上げる。 男は、まだ立っていた。 しかも今度は、こちらを向いている。 彼は立ち上がった。 「帰ろう」 そう思って歩き出した。 ところが、公園の出口へ向かって数歩進んだところで、背後から声がした。 「……待って」 振り返る。 誰もいない。 さっきまで男が立っていた街灯の下にも、何もない。 彼は少しだけ安心した。 そして、そのまま公園を出ようとした。 その瞬間だった。 背中に、誰かの視線を感じた。 振り返らない。 なぜか、振り返ってはいけない気がした。 そのまま歩く。 すると後ろから、 「……なんで帰るの?」 今度は、はっきり聞こえた。 彼は走った。 公園を出て、道路を渡り、明るい場所まで一気に駆けた。 ようやく振り返る。 誰も追ってきていない。 その日は、そのまま帰宅した。 翌朝。 大学へ向かう途中、昨夜のことが気になった彼は、もう一度公園を見に行った。 そして、ベンチの前で足を止めた。 昨夜、自分が座っていたベンチ。 その座面に、黒い汚れのようなものが付いている。 よく見ると、それは泥だった。 まるで―― 濡れた靴で誰かが何度もそこに立ったような跡だった。 不思議に思っていると、近くを掃除していた年配の男性が声をかけてきた。 「そこ、昨日も座ってた?」 彼は驚いて答えた。 「はい……どうして分かったんですか?」 男性は少し黙ってから言った。 「いや……最近、...

徳島市立動物園跡――夜の檻から聞こえる声

徳島市の中心部に、かつて市立動物園があった。 1957年に開園したこの動物園は、長い間、多くの子どもたちに親しまれていた。 しかし1997年、動物園は閉園。 翌年には現在の場所へ移転し、かつて動物たちが暮らしていた場所には、静かな時間だけが残された。 これは、そんな旧動物園跡の近くで起きたという話だ。 ある男性が、仕事帰りにその周辺を歩いていた。 時刻は夜11時を過ぎていた。 昼間なら車や人の往来もある場所だが、その時間になると辺りは驚くほど静かだった。 男性は何となく昔の動物園があった場所を眺めながら歩いていた。 すると―― 「……キィ……」 どこからか、金属が擦れるような音が聞こえた。 立ち止まって耳を澄ます。 風だろうと思った。 ところが数秒後、 「……キィ……キィ……」 今度は、はっきりと二度聞こえた。 まるで古い檻の扉を、誰かがゆっくり開け閉めしているような音だった。 男性は周囲を見回した。 もちろん、そこに動物園の檻など残っていない。 それでも音だけは続いていた。 気味が悪くなり、男性が歩き出した、その時だった。 「……まだ、いるよ」 背後から声がした。 男性は反射的に振り返った。 誰もいない。 しかし―― 少し離れた暗がりに、何かが立っている。 人影だった。 男性は目を凝らした。 身長は大人ほど。 だが、妙だった。 その影は動いているように見えるのに、足元だけがまったく動いていない。 まるで地面に立っているのではなく、暗闇の中から上半身だけが浮かび上がっているようだった。 男性が一歩後ずさる。 すると人影の向こうから、 「ガシャン……」 今度は、はっきりと鉄格子を叩くような音が響いた。 その瞬間、人影がゆっくり顔を上げた。 顔は見えない。 ただ、暗闇の中で二つの白いものだけが浮かんでいた。 目だった。 男性は恐ろしくなり、その場を離れようとした。 ところが―― 「……待って」 また声が聞こえた。 今度は背後ではない。 すぐ耳元だった。 男性が振り向く。 そこには誰もいない。 しかし、鼻を突くような獣の臭いがした。 古い檻の中に残った動物の臭い。 そんな臭いだった。 そして次の瞬間。 「ウゥ……」 低い唸り声が、暗闇の奥から聞こえた。 男性は走った。 振り返らなかった。 ただ、背後からはずっと、 「ガシャン……」 「ガシャン……」 鉄格子を叩くような音が...

城山公園――夜の展望台

これは、ある男性が城山公園で体験したという話だ。 その男性は、仕事で嫌なことが続いていたある夜、気分転換をするため、車で城山公園へ向かった。 時刻は午後11時を過ぎていた。 公園に着くと、周囲にはほとんど人の気配がなかった。 昼間なら景色を楽しむ人もいる場所だったが、夜になると印象は一変する。 街灯の少ない道を抜け、男性は展望台の近くまで歩いていった。 そこから見える街の明かりを眺めていると、突然、 「……カン」 乾いた金属音が聞こえた。 男性は振り返った。 しかし、誰もいない。 気のせいだと思い、再び景色を眺めた。 すると今度は、 「……カン、カン」 先ほどより近い。 まるで誰かが、手すりを指で叩いているような音だった。 男性は少し怖くなり、スマートフォンのライトを点けた。 周囲を照らしてみても、何もない。 ところが、ライトを消した瞬間だった。 展望台の階段の下から、 「……まだ、帰らないの?」 という声が聞こえた。 男性は凍りついた。 声は若い女性のようだった。 だが、階段の下には誰もいない。 「誰かいるんですか?」 恐る恐る声をかけても返事はない。 男性は急いで車へ戻ろうとした。 階段を下り、公園の道を歩いていると、背後からまた声がした。 「待って……」 今度は、すぐ後ろだった。 男性は振り返らなかった。 そのまま早足で歩き続けた。 すると今度は、背後から、 カン……。 カン……。 カン……。 金属を叩く音が、一定の間隔でついてくる。 男性が走り出すと、音も速くなる。 カン、カン、カン――。 車まであと少し。 そこで男性は、どうしても気になってしまった。 ほんの一瞬だけ、後ろを振り返った。 誰もいない。 だが、展望台の方向を見ると、暗闇の中に人影が立っていた。 こちらを向いている。 顔は見えない。 男性は慌てて車に乗り込み、エンジンをかけた。 そして、そのまま公園を出た。 翌朝、男性は昨夜のことを確かめるため、スマートフォンの写真を確認した。 展望台で撮った写真が一枚だけ残っていた。 何気なく撮影した、夜景の写真だった。 しかし、拡大してみると―― 展望台の手すりの向こうに、黒い人影が写っていた。 そして、その人物の手は、 まるでこちらを呼ぶように、 ゆっくりとこちらへ伸びていた。 男性はその写真をすぐに削除した。 それ以来、夜の城山公園には近づいていないとい...

佐古山――振り返ってはいけない坂

徳島市にある佐古山。 昼間なら、ただ静かな山道にしか見えない。 しかし、夜になると空気が変わる。 街の明かりが遠ざかり、木々の間を抜ける風の音だけが聞こえる場所もある。 これは、そんな佐古山で起きたという話だ。 ある日の深夜、二人の男性が車で佐古山を走っていた。 時刻は午前一時を少し回った頃。 「もう帰ろうか」 運転していた男性がそう言った直後だった。 助手席の男性が、窓の外を見ながら呟いた。 「……今、誰かいたよな?」 「どこ?」 「ほら、あそこ」 指差した先には、木々が密集しているだけだった。 人影など見えない。 「見間違いだろ」 そう言って車を走らせた。 ところが、それから数十秒ほどして。 車の後部座席から、 コン…… と小さな音がした。 二人とも黙った。 もう一度、 コン……コン…… 今度ははっきり聞こえた。 まるで誰かが、車の内側から窓を叩いているような音だった。 「……後ろ、見てみろよ」 助手席の男性が言った。 しかし、運転していた男性は首を振った。 「嫌だ」 理由は分からなかった。 ただ、後部座席を振り返ってはいけない。 そんな気がしたという。 車はそのまま山道を進んだ。 すると突然、カーナビの画面が消えた。 電源を入れ直しても戻らない。 その代わり、画面には見たことのない文字が一瞬だけ表示された。 ―― 「まだ帰らないで」 「……何だこれ」 二人が凍りついた。 だが次の瞬間、画面は通常の表示に戻った。 怖くなった二人は、急いで山を下りようとした。 その時だった。 助手席の男性が、バックミラーを見て青ざめた。 「……なあ」 「何だよ」 「後ろの車……いつからいた?」 運転手がミラーを見る。 後ろには、車が一台。 ヘッドライトを消したまま、ぴったりとついてきている。 だが、おかしかった。 その車には―― 運転席に誰もいなかった。 「……止まるな」 二人は無言のままアクセルを踏み込んだ。 後ろの車も、同じ速度でついてくる。 カーブを曲がっても離れない。 坂を下っても離れない。 そして、山を抜ける直前。 後ろの車が突然消えた。 二人は何度もミラーを確認した。 そこにはもう、何もいない。 「……助かった」 そう思った。 しかし。 家に帰ってから、助手席の男性がスマートフォンに残っていた写真を見て、言葉を失った。 山道を走っている途中、何気なく撮った一枚だった。...

眉山山頂――展望台の向こう側

徳島市の中心部から見える眉山。 昼間は観光客も多く、山頂からは徳島の街並みを一望できる、よく知られた場所だ。 けれど、夜になると雰囲気が一変する。 これは、数年前の秋に、友人と二人で眉山山頂へ行った男性から聞いた話だ。 その日は夜遅くまで飲んでいた。 店を出たのは午前一時を過ぎた頃。 「ちょっと山の上から夜景を見て帰ろうぜ」 友人にそう誘われ、車で眉山を上った。 山頂に近づくにつれ、街の明かりが少なくなっていく。 やがて展望台付近に到着した。 駐車場には、ほとんど車がなかった。 「さすがにこの時間だと誰もいないな」 そう言って二人で車を降りた。 空気は冷たく、山の中は異様なほど静かだった。 虫の声すら聞こえない。 展望台へ向かって歩いていると、友人が突然立ち止まった。 「……あれ、誰かいる」 指差した先には、展望台の端に人影があった。 暗くて顔までは見えない。 ただ、じっと徳島市街の方を見下ろしている。 「こんな時間に?」 二人は少し警戒しながら近づいた。 すると、人影はゆっくり振り返った。 ――だが、顔が見えない。 髪の毛で顔を覆っているわけでもない。 街灯の光が当たっているのに、そこだけ黒く塗りつぶされたように見えた。 「……帰ろう」 友人が小さな声で言った。 二人はその場から離れ、駐車場へ戻った。 そして車に乗り込んだ。 エンジンをかけようとした、その瞬間だった。 コン…… 車の後ろから音がした。 「今の何?」 二人とも黙った。 コン……コン…… 今度ははっきり聞こえた。 誰かが車の後部を、指で軽く叩いている。 男性は恐る恐るバックミラーを見た。 何もいない。 「……気のせいだろ」 そう言ってエンジンをかけ、車を発進させた。 山道を下り始めて数分。 友人が突然、 「ちょっと待って」 と言った。 「どうした?」 「後ろ……」 男性がルームミラーを見る。 後部座席には誰もいない。 「何もいないだろ」 そう言うと、友人は震えた声で答えた。 「違う……後ろの窓」 二人は同時に振り返った。 後部座席の窓。 そこに―― 手の跡がいくつも付いていた。 外側からではない。 車内側から、ガラスを押さえつけたような手形だった。 しかも、その手形は一つではなかった。 小さな手。 大きな手。 指の長い手。 何人もの人間が、後部座席から窓に手をついているようだった。 「止めるな」 友人...

眉山ドライブウェイ――バックミラーに映ったもの

それは、まだ夏の暑さが残っていた頃の話だった。 仕事を終えた私は、友人と二人で夜のドライブに出かけた。 特に目的地があったわけではない。 「久しぶりに眉山でも上ってみるか」 友人がそう言ったので、徳島市内から眉山ドライブウェイへ向かった。 時刻は午後十一時を過ぎていた。 山道に入ると、街の明かりが少しずつ遠ざかっていく。 窓を開けると、夏なのに山の空気はひんやりしていた。 車のヘッドライトだけが、暗い道路を細長く照らしている。 カーブを一つ曲がったところで、友人が突然、 「……今、誰かいた?」 と言った。 「え?」 私は前を見た。 道路には誰もいない。 「何が?」 「いや……今、道路の端に立ってたように見えた」 「人?」 「たぶん」 そう言いながらも、友人は少し気味悪そうにしていた。 私は気のせいだと思った。 木の影か、標識か何かを人と見間違えたのだろう。 そのまま車を走らせた。 しばらくすると、道路脇に白いガードレールが見えてきた。 その先には、街の明かりが広がっていた。 せっかくだから夜景を見ようと、少し先の展望できそうな場所で車を停めた。 エンジンを切る。 車内が急に静かになった。 遠くに徳島市街の明かりが見える。 「やっぱり夜に来ると綺麗だな」 私がそう言うと、友人は返事をしなかった。 「どうした?」 「……後ろ、見てみ」 「何が?」 友人は振り返らず、バックミラーを指差した。 私は何気なくミラーを見た。 後部座席には、もちろん誰もいない。 だが―― ミラーの端に、白っぽいものが映っていた。 一瞬、人の顔のように見えた。 私は反射的に振り返った。 当然、そこには何もない。 「何もいないぞ」 そう言って前を向いた瞬間だった。 車の後ろから、 コン…… と、小さな音がした。 二人とも黙った。 また、 コン…… 今度は、はっきり聞こえた。 まるで誰かが車の後部を指で叩いているような音だった。 「……動物かな」 友人が小さな声で言った。 私はエンジンをかけた。 そして、その場を離れることにした。 山を下り始めてすぐだった。 友人がバックミラーを見ながら、 「……まだいる」 と言った。 「何が?」 「さっきの……白い人」 私はミラーを見た。 何もいない。 「どこに?」 「今、カーブのところ……」 私はブレーキを踏みかけた。 しかし、友人が突然、 「止まらないで!」 と...