舞鶴公園――夜の石垣に立つ女
深夜の舞鶴公園は、昼間とはまるで別の場所に見える。 昼間なら、桜や木々に囲まれた福岡城跡を多くの人が歩いている。 しかし、日付が変わる頃になると、人の気配はほとんどなくなる。 その夜、仕事帰りの男性が一人で公園の中を歩いていた。 近道をするため、福岡城跡の石垣沿いを通っていたのだ。 街灯はある。 だが、石垣の向こう側は暗く、木々の隙間には何も見えない。 男性がしばらく歩いていると、 「……すみません」 背後から、女の声が聞こえた。 男性は足を止めた。 振り返る。 誰もいない。 気のせいだと思い、再び歩き始める。 すると、 「……待って」 今度は、さっきより近い。 男性はゆっくり振り返った。 すると、石垣のそばに女が立っていた。 白っぽい服を着ている。 顔は下を向いていて、髪が垂れているため表情は見えない。 男性は、 「大丈夫ですか?」 と声をかけた。 女は何も答えなかった。 ただ、ゆっくりと顔を上げた。 その瞬間、男性は息を呑んだ。 女の顔は青白く、目だけが異様に大きく見えた。 そして女は、男性ではなく、その後ろを見つめていた。 「……そこにいる」 小さな声だった。 男性が振り返る。 当然、誰もいない。 再び女を見る。 すると―― 女が消えていた。 代わりに、石垣の足元に濡れた跡が残っていた。 まるで、誰かが雨の中を裸足で歩いてきたような跡だった。 男性は怖くなり、その場から逃げるように公園を出た。 ところが、翌朝。 昨夜のことが気になった男性は、もう一度その場所を訪れた。 そして石垣の前で立ち止まった。 昨夜見た濡れた跡は、当然もう消えていた。 しかし、石垣には妙なものが残っていた。 人の手の跡だった。 しかも一つではない。 石垣のかなり高い位置まで、無数の手形が続いていた。 男性はその場を離れようとした。 そのとき―― 背後から、女の声がした。 「……昨日は、ひとりだったでしょう?」 男性の身体が凍りついた。 ゆっくり振り返る。 誰もいない。 だが、石垣の向こうから、 「……今日は、二人いる」 という声が聞こえた。 男性は走って逃げた。 後ろを振り返ることは、一度もしなかった。 その後、男性は二度と舞鶴公園の夜道を歩かなかった。 ただ、一つだけ気になることがあった。 あの夜、女が最初に言った、 「そこにいる」 という言葉。 後になって考えると―― 女は、男性の後...