大財公園――誰もいないベンチ

深夜一時を過ぎた頃だった。

仕事帰りの男は、いつものように大財公園の前を通りかかった。

公園の中には誰もいない。
街灯もまばらで、遊具の影だけが地面に長く伸びている。

男が何気なく公園の奥を見ると、ベンチに誰かが座っているのが見えた。

白っぽい服を着た人影だった。

こんな時間に誰がいるんだろう。

そう思いながら通り過ぎようとした瞬間、その人影がゆっくりと顔を上げた。

距離があって顔までは見えない。

ただ、こちらを見ている。

男は気味が悪くなり、視線を逸らしてそのまま歩いた。

すると――

「……すみません」

背後から、小さな声が聞こえた。

男は立ち止まった。

振り返ると、さっきのベンチに座っていた人影が立っている。

だが、おかしい。

さっきまでベンチから動いた様子はなかったはずなのに、今は公園の出口近くまで来ている。

男は何も答えず、歩く速度を上げた。

すると背後から、

「待って……」

また声がした。

男は振り返らなかった。

そのまま公園を離れようとした時、スマートフォンが突然震えた。

画面を見ると、知らない番号から着信が入っていた。

こんな時間に誰だと思いながら、男は電話を取らなかった。

すると着信が切れた直後、今度はメッセージが届いた。

『どうして置いていくの?』

男の背筋が凍った。

もちろん、誰かを置いていった覚えなどない。

恐る恐る公園の方を見る。

ベンチには誰もいなかった。

ところが――

公園の出口に立っていた。

さっきの人影が。

街灯の下に立ったその姿を見て、男は息を呑んだ。

服装は同じだった。

しかし、顔が見えない。

俯いているわけでもないのに、顔だけが暗闇に溶け込んでいる。

男は逃げるようにその場を離れた。

翌朝、昨夜の出来事が気になり、もう一度公園を訪れた。

昨夜見たベンチには、何もなかった。

ただ、ベンチの隅に小さな濡れた跡が残っていた。

雨は降っていなかった。

男が近づいて見ると、その濡れた跡の上に、指で書いたような文字が残っていた。

『また夜に来て』

男はそれを見た瞬間、公園を後にした。

それ以来、深夜に大財公園を通ることはなくなったという。

ただ、後になって男は一つだけ気づいた。

あの夜、最初に見たベンチには――

最初から誰も座っていなかった。

男が「人影」だと思って見ていたものは、ベンチの背もたれに落ちた、街灯の影だった。

では、男が最後に公園の出口で見た「あれ」は、一体何だったのか。

そして、翌朝ベンチに残っていた濡れた跡は――

誰が残したものだったのだろうか。

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