嘉瀬処刑場跡――夜道に立つ人

佐賀市の嘉瀬に、かつて処刑場があったという。

昼間に訪れても、そこには特別なものはない。

ただ、昔から地元では、

「夜にあの辺りを歩くと、後ろから足音が聞こえる」

そんな噂が囁かれていた。

ある夏の夜、友人と二人でその場所を訪れた。

時刻は午前一時を過ぎていた。

周囲に人の気配はなく、聞こえるのは虫の声だけ。

「何もないじゃん」

友人が笑った。

そのときだった。

――ザッ。

背後から、砂を踏むような音がした。

二人で振り返る。

誰もいない。

「風じゃない?」

そう言って歩き始める。

すると今度は、

――ザッ、ザッ、ザッ。

明らかに誰かが後ろを歩いている。

二人が立ち止まると、足音も止まった。

恐る恐る振り返る。

やはり誰もいない。

「もう帰ろう」

友人が小声で言った。

その瞬間、耳元で女の声がした。

「……まだ、帰らないで」

二人とも凍りついた。

声がしたのは、確かにすぐ後ろ。

しかし、そこには誰もいない。

慌てて車へ戻り、エンジンをかけた。

そしてライトを点けた瞬間――

道路の真ん中に、白い服を着た人影が立っていた。

顔は見えない。

ただ、こちらをじっと見ている。

クラクションを鳴らす。

すると人影は、ゆっくりとこちらへ歩き始めた。

一歩。

また一歩。

そして車の目の前まで来たところで――

突然、消えた。

翌朝、車を確認すると、後部座席の窓に手形が残っていた。

外側ではない。

車内側から押しつけられたような手形だった。

それ以来、二人は二度と嘉瀬処刑場跡の近くを夜に通らなくなったという。

そして今でも、夜遅くにその周辺を歩くと、

誰もいないはずの後ろから、砂を踏む足音がついてくる。

――ザッ。

――ザッ。

振り返ってはいけない。

そこにいるものと、目が合うかもしれないから。

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