牧石小学校前交差点――夜道に立つ女
夜の十一時を過ぎた頃だった。
仕事を終えた男は、いつものように車で帰宅していた。
昼間なら子どもたちの声が聞こえる牧石小学校の周辺も、この時間になると人影はほとんどない。
やがて、牧石小学校前の交差点に差しかかった。
信号が赤になったため、男は車を止めた。
そのときだった。
交差点の向こう側に、ひとりの女が立っていることに気づいた。
白っぽい服を着て、じっとこちらを見ている。
こんな時間に、なぜ小学校の前に立っているのだろう。
男がそう思っていると、信号が青に変わった。
車を発進させる。
ところが、女は横断歩道を渡ろうとしなかった。
ただ、こちらを見つめたまま立っている。
「……なんだ?」
男はバックミラーを確認した。
すると、女の姿はもう見えなかった。
気味が悪かったものの、見間違いだろうと思い、そのまま帰宅した。
しかし翌日の夜。
男は再び同じ交差点を通った。
そして、昨日とまったく同じ場所に、あの女が立っていた。
今度は少し近い。
男はアクセルを踏み、その場を通り過ぎた。
ところが数十メートル走ったところで、車内から小さな音が聞こえた。
――コン。
後部座席の窓を、誰かが叩いたような音だった。
男は驚いてブレーキを踏んだ。
恐る恐るバックミラーを見る。
後部座席には誰もいない。
だが、窓には内側からつけられたような手形が残っていた。
男はそのまま車を走らせ、二度と夜中にあの交差点を通らなくなった。
それからしばらくして、男は知人にこの話をした。
すると知人は、少し黙ったあと、こう言った。
「……あそこ、夜に女を見たって話、昔からあるよ」
男が詳しく聞こうとすると、知人は首を横に振った。
「でも、ひとつだけ変なんだ」
「何が?」
「その女を見た人は、みんな最初は交差点の向こうにいるって言うんだ」
「それが?」
「帰る頃になると……いつの間にか、車の後ろにいるらしい」
男はその話を聞いてから、二度と牧石小学校前交差点を夜に通らなくなった。
そして今でも、深夜の交差点で信号待ちをしていると、誰もいないはずの横断歩道の向こうに、人影が立っていることがあるという。
その人影は、信号が青になっても渡らない。
ただ、車が通り過ぎるのを待っている。
まるで――
次に乗せてもらう車を探しているかのように。
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