山口城跡――夜の城跡で呼び止める者
山口城跡には、夜になると人の気配を感じることがあるという。
それは、誰かが歩いている気配だったり、遠くから話し声が聞こえたりするというものだった。
ある秋の夜、大学生の男二人と女一人が、肝試しのため山口城跡を訪れた。
時刻は午前0時を少し過ぎた頃。
昼間なら静かな史跡に見える場所だったが、夜になると雰囲気が一変していた。
木々の間から吹いてくる風が妙に冷たい。
そして、三人が城跡の奥へ進んでいくと、先頭を歩いていた男が突然立ち止まった。
「……今、誰かいたよな?」
二人が前を見る。
暗闇の中、少し離れた場所に白っぽい服を着た女性が立っていた。
こちらに背を向けている。
「誰?」
女が声をかけた。
すると女性は、ゆっくりと振り返った。
しかし――
顔が見えない。
髪の毛が異様に長く、顔全体を覆っていた。
三人が固まっていると、女性の首が不自然な角度で横に傾いた。
そして、小さな声で言った。
「……帰ったほうがいいよ」
三人は一瞬、誰かが脅かしているだけだと思った。
だが次の瞬間。
背後から男の声が聞こえた。
「……まだ帰るな」
三人が振り返る。
誰もいない。
しかし、今度はすぐ耳元で聞こえた。
「まだ……終わってない」
恐怖で動けなくなった三人。
すると、先ほどの女性がいつの間にか目の前まで近づいていた。
長い髪の隙間から、真っ黒な目だけが覗いている。
その後ろには、いつの間にか男が立っていた。
古い服を着た男だった。
顔は青白く、首には黒い痕のようなものが残っている。
男は三人を見つめながら、低い声で呟いた。
「ここから出るな」
その瞬間、周囲から無数の声が聞こえ始めた。
「誰だ……」
「どこへ行く……」
「置いていくな……」
男の声、女の声、子供のような声まで混じっている。
三人は一斉に走り出した。
しかし、何度走っても同じ場所に戻ってしまう。
そして最後に、一人の男が気づいた。
「……俺たち、さっきから階段を上ってないか?」
三人の足元を見る。
そこには暗闇へ続く石段があった。
だが、その石段は先ほどまで存在していなかった。
一段。
また一段。
三人が後ずさる。
すると、石段の上から女性の声がした。
「……こっちだよ」
見上げると、あの女が立っている。
その隣には、先ほどの男。
二人は手をつないでいた。
そして、二人の後ろには――
数え切れないほどの人影が並んでいた。
誰も動かない。
ただ三人を見下ろしている。
その中の一人が、ゆっくりと顔を上げた。
顔がなかった。
その瞬間、三人のスマートフォンが同時に消えた。
真っ暗な中で、女性の声だけが響く。
「あなたたちも……ここに残る?」
翌朝。
三人は城跡の入口近くで発見された。
全員、意識を失っていたという。
しかし、不思議なことに三人とも、昨夜の出来事についてほとんど覚えていなかった。
ただ、一人のスマートフォンだけに、奇妙な写真が残されていた。
暗闇の中で撮影された一枚の写真。
そこには三人の後ろに立つ、男女の姿が写っていた。
そして写真の一番奥。
木々の隙間には、さらに大勢の人影が並んでいた。
その中の一人だけが、カメラに向かって手を振っていた。
――まるで、
「また来い」
と言っているように。
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