岡山藩宍甘処刑場跡――夜の山道で聞こえた女の声

岡山市東区にある、岡山藩宍甘処刑場跡。

現在は周辺に住宅や道路が整備され、昔の処刑場だったことを知らなければ、そこが恐ろしい場所だったとは気づかない。

だが、昔この地では処刑が行われていた。

ある夜、一人の男性が、宍甘の山道を車で走っていた。

時刻は午前一時を過ぎていた。

周囲には人の気配がなく、車のヘッドライトだけが暗い道を照らしている。

すると突然――

「……止まって」

小さな女の声が聞こえた。

男性は驚いてブレーキを踏んだ。

しかし、道路には誰もいない。

窓を開けて外を見ても、聞こえるのは風の音だけだった。

「気のせいか……」

そう思い、車を発進させた。

ところが数十メートル進んだところで、

「……止まって」

また聞こえた。

今度は、はっきりと車の後部座席から聞こえたという。

男性は恐る恐るバックミラーを見た。

そこには――

誰もいない。

だが、ミラーの端に何か白いものが映っていた。

長い髪。

白い着物のような服。

男性が振り返った瞬間、それは消えた。

そして次の瞬間、

「熱い……」

耳元で女の声がした。

男性は叫び声を上げ、車を急発進させた。

自宅に戻ってからも、あの声が頭から離れなかった。

しかし、一番恐ろしかったのは翌朝だった。

車を確認すると、後部座席の窓ガラスに――

内側から指でなぞったような跡が、いくつも残っていた。

しかも、その指の跡は窓の下から上へ向かって続いていた。

まるで誰かが、車の中から外へ出ようとしていたように。

男性はその後、二度と宍甘の山道を夜に通らなくなった。

そして地元の歴史を調べるうちに、ある話を知った。

かつて宍甘の刑場では、女性が処刑された記録が伝えられているという。

磔や火刑が行われたともされている。

もちろん、あの夜に聞いた声と歴史との関係は分からない。

ただ男性は今でも、

「最後に聞こえた『熱い』という声だけは、絶対に忘れられない」

そう話している。

静かな山の中。

昼間なら何気なく通り過ぎる場所でも、夜になると空気が変わる。

そしてもし暗闇の中で、

「止まって……」

と、女の声が聞こえてきたら――

その声がどこから聞こえているのか、確かめないほうがいいのかもしれない。

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