七類隧道――狂犬の声

深夜、七類隧道の近くを通った男性がいた。

その日は仕事が遅くなり、普段なら使わない山道を車で走っていた。

周囲には街灯がほとんどなく、窓の外は真っ暗だった。

しばらくすると、前方に古びたトンネルが見えてきた。

七類隧道だった。

入口の前まで来たとき、男性は妙な違和感を覚えた。

トンネルの中から、

「……クゥ……」

何かの鳴き声が聞こえたのだ。

最初は犬だと思った。

しかし、こんな山の中に野良犬がいるのか。

そう考えながら車を進める。

すると今度は、

「ワン……」

はっきりと犬の声が聞こえた。

男性はアクセルを緩めた。

その瞬間、トンネルの奥から激しい足音が響いてきた。

タッ、タッ、タッ、タッ――。

何かがこちらへ向かって走ってくる。

男性は思わずブレーキを踏んだ。

だが、いくら目を凝らしても何も見えない。

ただ、暗闇の奥から荒い息遣いだけが近づいてくる。

「ハッ……ハッ……ハッ……」

そして突然、

「ガルルルル……」

低い唸り声が、車のすぐ横から聞こえた。

男性は恐る恐る助手席側を見る。

何もいない。

しかし、窓ガラスには――

犬の鼻先を押しつけたような、白い跡が残っていた。

男性は慌てて車を発進させた。

トンネルを抜けるまで、後ろを振り返ることはできなかった。

ようやくトンネルを抜け、少し走ったところで、男性はバックミラーを見た。

すると、トンネルの出口に何かが立っていた。

四本足のようにも見える。

だが、次の瞬間、それはゆっくりと二本足で立ち上がった。

そしてこちらを見つめたまま、

「ワン……」

と一度だけ鳴いた。

男性はそのまま振り返らず、山道を下りた。

翌日、車を確認すると、助手席側のドアに奇妙な傷が何本も残っていた。

まるで、鋭い爪で引っかいたような傷だったという。

それ以来、男性は七類隧道を二度と通らなくなった。

そして地元では、夜のトンネルで犬の声を聞いても、決して車を止めてはいけないという。

その声が聞こえたとき――

犬は、すでに車のすぐ近くまで来ている。

そう言われている。

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