成合自販機前公衆電話ボックス――鳴ってはいけない電話
深夜、成合にある自動販売機の前を、一人の男性が車で通りかかった。
喉が渇いたため、車を停めて飲み物を買おうと外へ出る。
辺りは静まり返っていた。
自動販売機の明かりだけが、暗い道路をぼんやり照らしている。
そのすぐ横に、古い公衆電話ボックスがあった。
今ではほとんど使われなくなった公衆電話。
男性は何気なく中を覗いた。
受話器はきちんと置かれている。
電話機にも特に変わったところはない。
ところが――
その瞬間だった。
「……プルルル……」
突然、電話が鳴った。
男性は思わず立ち止まった。
こんな時間に、誰が公衆電話へ電話をかけるのか。
不思議に思いながらも、しばらく様子を見ていた。
「プルルル……」
電話は鳴り続ける。
周囲には誰もいない。
男性は迷った末、受話器を取った。
「……もしもし?」
返事はない。
ただ、
「……ザー……」
という小さな雑音が聞こえるだけだった。
切ろうとした、その時。
受話器の向こうから、かすかな声がした。
「……そこに……いる?」
男性の背筋が凍った。
声は、どこか遠くから聞こえてくるようだった。
「誰ですか?」
そう尋ねても返事はない。
すると突然、
「……後ろ……」
とだけ聞こえた。
男性は振り返らなかった。
怖くて、振り返ることができなかった。
そのまま受話器を置こうとした瞬間――
「ガチャッ」
背後から、何かが公衆電話ボックスのガラスを叩いた。
男性は反射的に振り返った。
しかし、誰もいない。
外には自動販売機と暗い道路があるだけだった。
急いで受話器を戻し、車へ向かおうとした。
その時だった。
公衆電話が、もう一度鳴った。
「プルルル……」
男性は足を止めた。
さっきまで確かに受話器を置いた。
なのに、電話は鳴っている。
しかも今度は――
ボックスの外からではなく、
自分のポケットの中からだった。
恐る恐るスマートフォンを取り出す。
画面には、見覚えのない番号が表示されていた。
着信に出る。
「……もしもし?」
すると、
受話器から聞こえたのと同じ声がした。
「……今、後ろにいるよ」
男性は、そこで初めて振り返った。
公衆電話ボックスの中に――
自分と同じように電話を持った男が立っていた。
顔は見えない。
ただ、その男はじっとこちらを見ている。
そして、ゆっくり受話器を耳から離すと、
「……やっと、見つけた」
そう呟いた。
男性は慌てて車へ逃げ込み、その場を離れた。
それ以来、二度とその場所には近づいていないという。
ところが後日。
男性がスマートフォンに残っていた着信履歴を確認すると、奇妙なことに気づいた。
あの夜にかかってきた電話番号。
それは――
公衆電話の番号ではなかった。
そこに表示されていたのは、
「非通知」
だった。
そして、その着信時刻は――
男性がまだ車の中にいて、成合の自動販売機へ向かう前の時間だった。
では一体、
あの電話は誰がかけてきたのか。
そして、電話ボックスの中にいた男は――
誰だったのだろうか。
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