上蓬莱橋――橋の向こうから

夜の上蓬莱橋は、昼間とはまるで違う顔をしていた。

川の流れる音だけが響き、街灯の明かりもところどころ途切れている。
その日、私は友人と二人で、橋の上を歩いていた。

「……なんか、ここ嫌な感じするな」

友人がそう言った。

私も同じことを感じていた。

橋の中央まで来たとき、ふと前方を見ると、向こう岸に人影が立っている。

白っぽい服を着た女だった。

街灯もない暗闇の中で、なぜかその姿だけが妙にはっきり見えた。

「誰かいるぞ」

友人が声をかけた。

しかし、女は動かない。

こちらを見ているようにも見えた。

その瞬間だった。

――コン。

橋の下から、何かを叩くような音がした。

二人とも足を止めた。

――コン……コン……。

今度ははっきり聞こえた。

まるで、橋の下から誰かが助けを求めているような音だった。

怖くなった私たちは、急いで橋を渡り始めた。

ところが、向こう岸にいたはずの女がいない。

「……消えた?」

周囲を見回しても、誰もいない。

そのまま帰ろうとしたとき、友人が突然立ち止まった。

「待って」

「どうした?」

友人は震えながら、橋の中央を指差した。

そこに、女が立っていた。

さっきまで向こう岸にいた女だった。

しかも今度は、私たちのすぐ後ろ。

顔は俯いていて、長い髪が表情を隠している。

私たちは振り返らず、その場から走って逃げた。

しばらくして安全な場所まで来ると、友人がスマートフォンを確認した。

「……これ、いつ撮ったんだ?」

画面には、橋の上を歩く私たちの後ろ姿が写っていた。

そして、そのさらに後ろ。

橋の欄干の向こう側から、女がこちらを見ていた。

友人が震える声で言った。

「でも……俺、こんな写真撮ってないぞ」

その写真を最後に、スマートフォンは突然電源が落ちた。

それから数日後。

私は一人で写真を整理していた。

何気なくあの写真をもう一度開いてみる。

すると、前には気づかなかったものが写っていた。

橋の下。

暗い川面の中に、もう一人、人影が立っていた。

そしてその人物は――

橋の上にいる私たちではなく、こちらを向いていた。

まるで写真を見ている私を、ずっと待っていたかのように。

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