会津さざえ堂――螺旋の途中で

夕暮れの飯盛山は、昼間とはまるで違う顔を見せる。

観光客の姿が少なくなり、木々の間から差し込んでいた光も、少しずつ薄暗くなっていた。

その日、私は一人で会津さざえ堂を訪れていた。

六角三層の不思議な建物。

中へ入ると、螺旋状の通路が上へと続いている。

上りと下りが別々になっているため、同じ場所を通っているはずなのに、人とすれ違うことがない。

それが、さざえ堂の特徴だった。

私はゆっくりと階段のない坂道を上っていった。

すると途中で――

「……カタ……カタ……」

下の方から、誰かが歩いてくる音が聞こえた。

木の床を踏む、乾いた足音。

私は立ち止まった。

誰かが下から上ってきている。

そう思った。

ところが、しばらく待っても人の姿は見えない。

足音だけが、少しずつ近づいてくる。

「カタ……カタ……カタ……」

私は怖くなり、先へ進んだ。

やがて最上部に近づいたところで、ふと背後を見る。

誰もいない。

しかし――

今度は、自分のすぐ後ろから声がした。

「……まだ、帰れない」

驚いて振り返った。

もちろん、誰もいない。

ただ、暗い螺旋の通路が続いているだけだった。

私は急いで出口へ向かった。

ところが、何度歩いても同じ景色が続く。

「おかしい……」

さざえ堂は一方通行の構造になっている。

来た道を戻っているわけではない。

それなのに、目の前には先ほど見た柱があった。

そして、その柱の横には――

小さな泥の足跡が残っていた。

一つ。

二つ。

三つ。

その足跡は、私の足元から始まり、螺旋の奥へ向かって続いていた。

その瞬間、遠くから大勢の少年たちが走るような音が聞こえた。

「急げ!」

「早く!」

「城へ……!」

何人もの声だった。

私は息を呑んだ。

飯盛山は、戊辰戦争の際に白虎隊が戸ノ口堰洞門を通って逃れ、最期を迎えた場所でもある。

そして、その声の中に混じって――

「……置いていかないでくれ」

という、小さな声が聞こえた。

次の瞬間。

さざえ堂の中が、突然しんと静まり返った。

足音も消えた。

声も消えた。

私は夢中で出口へ走った。

外へ出ると、もう辺りは暗くなっていた。

振り返ると、さざえ堂は何事もなかったかのように静かに佇んでいる。

そのときだった。

入口の近くに、誰かが立っていた。

白い着物のようなものを着た、少年だった。

こちらをじっと見ている。

そして、少年はゆっくり口を開いた。

「……ここから先は、一人で行かないほうがいい」

そう言った瞬間――

姿が消えた。

後から考えると、不思議なことが一つだけあった。

あのとき聞こえた足音は、ずっと自分の後ろから聞こえていた。

けれど、さざえ堂の構造上、上りの人間と下りの人間が同じ通路ですれ違うことはない。

つまり――

あの足音の主は、最初から人間ではなかったのかもしれない。

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