屋形町児童公園――夜のブランコ
夜の十一時を過ぎた頃。
仕事帰りの男性が、近道をするために屋形町児童公園の前を通りかかった。
昼間なら子どもたちの声が聞こえる、ごく普通の小さな公園。
しかし、その日は妙に静かだった。
街灯に照らされた遊具の中で、ブランコだけが小さく揺れている。
男性は風のせいだと思い、そのまま通り過ぎようとした。
その瞬間――
「……キィ……キィ……」
金属が擦れる音が、静かな公園に響いた。
見ると、二つあるブランコのうち、一つだけが大きく揺れている。
風はほとんど吹いていない。
男性は少し気味が悪くなり、足早に公園を離れようとした。
すると背後から、
「……ねえ」
小さな声が聞こえた。
男性が振り返る。
誰もいない。
公園の中には、揺れ続けるブランコだけ。
気のせいだと思い、再び歩き始める。
しかし数歩進んだところで、また声がした。
「……一緒に遊ぼうよ」
今度は、はっきり聞こえた。
男性が公園を見ると、ブランコの座面に小さな影が座っている。
子どものようにも見える。
けれど、街灯の下にいるはずなのに、顔だけが真っ黒で見えない。
そして、その影はゆっくりとこちらを向いた。
「……押して」
男性は恐ろしくなり、その場から走って逃げた。
翌朝。
公園を通りかかった男性は、昨夜のことが気になり、ブランコを確認した。
すると、一つの座面に泥のような小さな手形がいくつも残っていた。
さらに不思議なことに――
もう一つのブランコにも、誰かが座ったような跡が残っていた。
それ以来、夜の屋形町児童公園では、
誰もいないはずのブランコが揺れていることがあるという。
そして、近くを通った人の中には、
「……押して」
という子どもの声を聞いたという人もいる。
もし夜の公園で、誰も乗っていないブランコが揺れていたとしても――
決して、近づかないほうがいい。
そのブランコには、あなたに押してほしい誰かが、今も座っているかもしれない。
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