岩山展望台の怪談――夜景の向こう側

盛岡の街を一望できる岩山展望台。

昼間は観光客も訪れる、静かで見晴らしのいい場所だ。

けれど、地元では昔から、夜の展望台には妙な噂がある。

「夜景を見ていると、自分以外の誰かが一緒に映る」

そんな話だった。

ある冬の夜、一人の男が展望台を訪れた。

時刻は午前一時を過ぎていた。

駐車場には他の車もなく、周囲には風の音しか聞こえない。

男は展望台に上がり、盛岡の夜景を眺めた。

街の明かりが遠くまで広がっている。

「きれいだな……」

そう呟いて、スマートフォンで夜景を撮影した。

そのときだった。

背後から、

「……すみません」

と、女の声がした。

男が振り返る。

誰もいない。

展望台のベンチも、階段も、暗闇の中にあるだけだった。

気のせいだと思い、もう一度夜景に目を戻す。

しかし、スマートフォンの画面を見た瞬間、男の手が止まった。

さっき撮った写真。

その夜景の中に、奇妙なものが写っていた。

展望台のガラスに反射した自分の姿。

そのすぐ後ろに――

女が立っていた。

長い髪。

白っぽい服。

そして、顔だけが異様に俯いている。

男は慌てて振り返った。

やはり誰もいない。

震える手で、もう一度写真を確認する。

すると、写真の中の女が少しだけ顔を上げていた。

男は恐ろしくなり、急いで階段を下りた。

駐車場まで走り、車に乗り込む。

エンジンをかけ、すぐにその場を離れようとした。

そのとき――

助手席の窓を、

コン、コン。

と誰かが叩いた。

男は凍りついた。

ゆっくり横を見る。

窓の外には誰もいない。

それでも、

コン、コン、コン。

今度は明らかに、誰かが叩いている。

男はアクセルを踏み、駐車場から逃げるように走り去った。

翌朝。

男は昨夜撮影した写真を削除しようとした。

ところが、写真を開いた瞬間、さらに奇妙なことに気づいた。

昨夜は一枚しか撮影していないはずなのに、写真が二枚ある。

一枚目は、昨夜撮った夜景。

そして二枚目には――

車の中に座っている男自身の姿が写っていた。

撮影時刻は、

「午前1時17分」。

だが、その写真の撮影場所は岩山展望台ではなかった。

表示された場所は、

男の自宅の玄関前。

そして写真の端には、長い髪の女が立っていた。

男はすぐに写真を消した。

それ以来、二度と岩山展望台には近づかなかったという。

ただし、今でも夜の岩山展望台では、

誰もいないはずの場所から、

「……すみません」

という女の声を聞いたという話が残っている。

そして、その声に振り返ってはいけない。

もし振り返ってしまったら――

その人の背後ではなく、スマートフォンのカメラの中に、女が立っている。

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