秋葉山隧道――トンネルの向こうから聞こえる足音
夜の秋葉山公園は、昼間とはまるで違う顔を見せる。
街の明かりが届く場所もあるのに、少し奥へ進むだけで周囲は急に暗くなる。
これは、ある男性が友人と二人で秋葉山公園を訪れたときの話だ。
二人が公園に着いたのは、日付が変わる少し前だった。
「せっかくだし、隧道のところまで行ってみようぜ」
友人にそう言われ、二人は暗い道を歩いていった。
昼間なら何でもない道だった。
しかし夜になると、木々の間から聞こえてくる風の音や、遠くから聞こえる車の音が妙に大きく感じられる。
しばらく歩くと、秋葉山隧道が見えてきた。
入口の前で、二人は立ち止まった。
トンネルの中は真っ暗だった。
懐中電灯を向けても、光が奥まで届いているようには見えない。
「入ってみる?」
友人が冗談半分に言った。
男性は少し迷ったが、二人でなら大丈夫だろうと思い、トンネルの中へ入った。
コツ……コツ……
二人の靴音が、壁に反響する。
その音が妙に大きく聞こえた。
しばらく進んだところで、男性はふと違和感を覚えた。
自分たちの足音とは別に、もう一つ音が聞こえる。
……コツ。
少し遅れて、
……コツ。
後ろから誰かが歩いてくるような音だった。
男性が振り返る。
しかし、そこには誰もいない。
「どうした?」
友人が聞く。
「いや……今、後ろから足音しなかった?」
「気のせいじゃない?」
そう言われ、二人は再び歩き始めた。
すると、
コツ……コツ……コツ……
今度は、はっきり聞こえた。
しかも先ほどより近い。
二人は同時に振り返った。
やはり誰もいない。
懐中電灯で壁や床を照らしても、人影はなかった。
「もう戻ろう」
友人が小さな声で言った。
二人は引き返すことにした。
ところが、入口へ向かって歩き始めた直後だった。
今度は前方から足音が聞こえてきた。
……コツ。
……コツ。
誰かが、こちらへ向かって歩いてくる。
二人は立ち止まった。
暗闇の向こうには、何も見えない。
それなのに足音だけが、少しずつ近づいてくる。
……コツ。
……コツ。
……コツ。
友人が懐中電灯を向けた。
その瞬間、足音が止まった。
完全な静寂だった。
「……行こう」
二人は走り出した。
出口の明かりが見えた。
そのとき、男性は後ろを振り返ってしまった。
誰もいない。
そう思った。
しかし、トンネルの壁に映った二人の影とは別に、
もう一つだけ、
人の形をした影が伸びていた。
しかもその影は、二人の後ろではなく――
二人のすぐ横に立っていた。
男性は声を出すことができなかった。
友人も何かに気づいたのか、突然立ち止まった。
そして小さく、
「……今、誰かいたよな?」
そう呟いた。
二人は振り返らず、そのままトンネルを飛び出した。
公園の明かりが見えた瞬間、ようやく足を止めた。
二人とも、しばらく何も話せなかった。
そして後になって、男性は気づいた。
トンネルの中で聞こえていた足音は、
二人が歩くときには必ず少し遅れて聞こえていた。
まるで誰かが、二人の後ろを一定の距離でついてきていたように。
そして最後に聞こえた足音だけは――
二人が走っていたにもかかわらず、
すぐ真横から聞こえていたという。
秋葉山隧道。
もし夜にこの場所を訪れることがあっても、
暗闇の中から聞こえてくる足音に、
決して振り返らないほうがいいのかもしれない。
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