栗林トンネル――後ろから聞こえる足音

深夜、友人と二人で車を走らせていた。

目的地は、地元では少し不気味な場所として知られている栗林トンネル。

時計は午前1時を回っていた。

「本当に行くの?」

助手席の友人が、少し不安そうに聞いてきた。

「せっかくだから、通り抜けるだけだよ」

そう答えて、車はトンネルへ向かった。

やがて、道路の先に暗い入口が見えてきた。

周囲には街灯も少なく、トンネルの入口だけが、ぽっかりと黒い穴のように見えていた。

車で中へ入る。

ヘッドライトが照らすのは、数十メートル先まで。

それより先は、完全な闇だった。

しばらく進んだところで――

「……今、何か聞こえなかった?」

友人が突然、そう言った。

「何が?」

「足音みたいな音」

耳を澄ます。

すると確かに、

――コツ……コツ……コツ……

という音が聞こえた。

最初は車のタイヤが路面を踏む音だと思った。

しかし、その音は車の走行音とは明らかに違っていた。

しかも――

音は車の後ろから聞こえていた。

「誰か歩いてるんじゃない?」

冗談半分に言った瞬間、

――コツ……コツ……コツ……

足音が少しずつ近づいてきた。

友人は黙り込んだ。

バックミラーを見る。

当然、誰もいない。

それでも足音だけは続いている。

そして、トンネルの出口が見え始めた。

「もうすぐ出るぞ」

そう言った直後だった。

――ドン。

車の後部から、何かを叩いたような音がした。

二人とも凍りついた。

「……今の、何?」

「知らない」

車を止める勇気はなかった。

そのままアクセルを踏み込み、トンネルを抜けた。

外へ出ると、足音はぴたりと止まった。

二人は何も言わず、その場を離れた。

翌日。

昨夜のことが気になり、車を確認してみることにした。

すると、車の後部――。

トランクの中央に、奇妙な跡が残っていた。

泥のような黒い汚れ。

そして、その横には、

まるで誰かが指でなぞったような細長い跡が、何本も付いていた。

しかし、一番怖かったのはそこではなかった。

友人がスマートフォンで昨夜撮影した動画を確認すると、

トンネルを走っている映像の最後。

ほんの一瞬だけ、車の後方が映り込んでいた。

そこには――

暗いトンネルの中を、こちらへ向かって歩いてくる人影が映っていた。

二人は、その人物を見た記憶がなかった。

そして動画を何度も見返していると、

人影が突然、立ち止まった。

こちらを見ているようだった。

次の瞬間――

画面の端に、白い顔が現れた。

まるで車のすぐ後ろまで追いついていたかのように。

それ以来、二人は二度と栗林トンネルへ近づかなかったという。

ただ、友人には今でも気になることが一つある。

あの夜、トンネルを抜けたあと。

車を停めたときには――

後部座席に、濡れた足跡が一つだけ残っていた。

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