うすい女子寮――空室のはずの部屋

その女子寮には、昔から一つだけ妙な噂があった。

「夜中に、誰もいない部屋から物音がする」

寮に住む女子たちは、最初こそ笑っていた。

古い建物だから、床がきしんだり、配管が鳴ったりするだけ。

そう思っていた。

ところが、ある夜。

午前二時を過ぎた頃、廊下の奥から、

――コン、コン、コン。

と、一定の間隔で壁を叩く音が聞こえてきた。

音がするのは、ずっと空室になっている一室だった。

気になった一人が、恐る恐る部屋の前まで行った。

すると、音はぴたりと止んだ。

「……誰かいるの?」

返事はない。

そのまま部屋へ戻ろうとした瞬間、

――コン。

今度は、すぐ後ろから音がした。

振り返っても、誰もいない。

怖くなって部屋へ戻った彼女は、その夜は何も考えずに眠ろうとした。

しかし翌朝。

同じ寮生から、奇妙なことを聞かされた。

「昨日の夜、あなたの部屋の前を通ったんだけど……ずっと誰かと話してなかった?」

そんな覚えはない。

すると彼女は、昨夜のことを思い出した。

空室の前で、

「誰かいるの?」

そう声をかけたこと。

そして、その直後に聞こえた音。

――コン。

実はその音は、部屋の中からではなかった。

壁の向こう側から聞こえていたのだ。

それから数日後。

寮の改修工事が始まり、問題の部屋の壁が取り壊された。

すると、壁の内側から古い鏡が一枚出てきた。

なぜ、そんな場所に鏡が埋め込まれていたのか。

誰にも分からなかった。

ただ、その鏡には奇妙な傷が残っていた。

表面には、内側から爪で引っかいたような跡が無数についていた。

そして工事が終わった日の夜。

誰もいないはずの空室から、

――コン、コン、コン。

また、壁を叩く音が聞こえた。

寮生が廊下を確認すると、問題の部屋の扉には鍵が掛かっていた。

それなのに。

扉の向こうから、女の声がした。

「……開けて」

その声を聞いた寮生は、怖くなってその場から逃げた。

翌朝、管理人が部屋を開けて確認した。

中には誰もいなかった。

ただ、昨日まで何もなかった壁に、

小さな手形が一つだけ残っていた。

しかもその手形は、壁の外側ではなく――

壁の内側から押しつけられたように残っていたという。

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