別大国道・手招き地蔵――夜道で呼ぶもの

深夜の別大国道を、車で走っていた。

海沿いの道には街灯が並び、対向車のライトが時折、暗闇を切り裂いていく。

その日は雨だった。

「こんな時間に走るの、久しぶりだな……」

そう独り言を呟きながら、海側へ視線を向けた。

そのときだった。

道路脇に、小さな地蔵が立っているのが見えた。

雨に濡れた赤い前掛け。

古びた石の顔。

そして――右手が、こちらに向かって伸びている。

まるで、

「こっちへ来い」

と手招きしているように見えた。

気味が悪かったので、すぐに前を向いた。

ところが数秒後。

バックミラーを見ると、さっきの地蔵が映っていた。

「……?」

慌てて振り返る。

当然、そこには何もない。

気のせいだと思い、そのまま車を走らせた。

しかし、しばらくすると異変が起きた。

カーナビの現在地が、突然おかしくなった。

画面には、今いるはずのない場所が表示されている。

そしてナビが、何度も同じ言葉を繰り返した。

「目的地周辺です」

「目的地周辺です」

「目的地周辺です」

目的地なんて設定していない。

怖くなってナビを切った。

その瞬間――

コン。

コン。

車の窓を、誰かが叩いた。

「……誰だ?」

速度を落とさず、横目で窓を見る。

そこには誰もいない。

だが、また聞こえた。

コン。

コン。

今度は助手席側。

恐る恐るバックミラーを見る。

すると――

後部座席に、赤い前掛けをした何かが座っていた。

顔は見えない。

ただ、片手だけがゆっくりと上がっている。

そして、その手は別大国道の道路脇にあった地蔵と同じように、

ゆっくりとこちらへ向かって手招きしていた。

「来い」

声がした。

車の中なのに、耳元で囁かれたようだった。

「こっちへ来い……」

男はアクセルを踏み込んだ。

そしてバックミラーを見ることができなくなった。

ただひたすら前だけを見て走った。

翌朝。

男の車は道路脇で発見された。

エンジンはかかったまま。

運転席には誰もいなかった。

警察が周辺を探したが、男は見つからなかった。

ただ一つ。

車の助手席の窓には、内側から濡れた手形が残されていた。

そして車から少し離れた場所。

そこには、赤い前掛けをした小さな地蔵が立っていた。

不思議なことに、その地蔵の右手には――

新しい泥が付いていたという。

まるで昨夜、

誰かの車の中まで入り込んだように。

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