比治山公園――夜の展望台に立つ女
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広島市内を見渡せる高台にある、比治山公園。
昼間は桜や緑を楽しむ人で賑わう、ごく普通の公園だ。
しかし、この場所には昔から、夜になると奇妙な体験をする人がいるという噂があった。
その噂を確かめるため、ある男性が深夜の比治山公園を訪れた。
時刻は午前1時を過ぎていた。
園内にはほとんど人影がなく、聞こえるのは風で木々が揺れる音だけ。
男性はスマートフォンのライトを頼りに、展望台へ向かって歩いていた。
すると――。
前方に、白い服を着た女が立っているのが見えた。
「こんな時間に……?」
女は背を向けたまま、広島市街の夜景をじっと眺めている。
男性が声をかけても、反応はない。
不思議に思いながら近づいていくと、突然、女がゆっくり振り返った。
その顔を見た瞬間、男性は凍りついた。
女には――顔がなかった。
目も、鼻も、口もない。
ただ真っ白な皮膚だけが、そこに張り付いていた。
男性が後ずさった瞬間、女の首が不自然な角度に傾いた。
そして、顔のないはずの場所から声が聞こえた。
「……どうして、ひとりなの?」
男性は夢中で走った。
振り返ることもできなかった。
公園の出口まで一気に駆け抜け、ようやく立ち止まる。
荒い息を整えながらスマートフォンを見ると、そこには奇妙な写真が一枚残っていた。
いつ撮ったのか分からない写真だった。
そこには、夜の展望台が写っていた。
そして中央に――。
顔のない女が立っていた。
男性はすぐに写真を削除した。
しかし翌朝。
スマートフォンを見ると、削除したはずの写真が復元されていた。
しかも、前日の写真とは違っていた。
女の姿が、少しだけ近づいている。
その後も写真は一枚ずつ増え続けた。
二枚目では展望台の階段。
三枚目では公園の遊歩道。
四枚目では――男性の自宅の玄関。
そして最後の写真。
そこには、眠っている男性自身が写っていた。
ベッドの横に立つ、顔のない女。
写真の撮影時刻は――
午前1時13分。
その時刻、男性は確かに自宅で眠っていたという。
それ以来、男性は二度と比治山公園へ近づかなかった。
だが今でも、夜の比治山公園を歩いていると、
「誰かに後ろから見られている」
そんな感覚を覚える人がいるという。
そして、もし深夜の展望台で――
白い服の女が夜景を眺めていたとしても、絶対に声をかけてはいけない。
振り返ったその顔に、
何もなかったとしても。
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