関屋分水路・関分記念公園――水面に浮かぶ顔
深夜の関屋分水路。
昼間は散歩する人や子どもたちで賑わう場所も、午前二時を過ぎると、人の気配はほとんどなくなる。
その夜、二人の若者が関分記念公園を訪れていた。
公園の名物でもある、タコの形をした滑り台を眺めながら、二人は噂話をしていた。
「ここ、夜中の二時になると出るらしいよ」
「何が?」
「男女の幽霊。昔、ここで心中したカップルがいるんだって」
笑いながら時計を見る。
午前二時。
その瞬間だった。
公園の奥から、
ギィ……
と、何かが軋む音が聞こえた。
風はない。
二人は顔を見合わせ、恐る恐るタコの滑り台を見る。
すると、滑り台の内部にある暗い空間から、誰かがこちらを覗いていた。
最初は子どもだと思った。
しかし、近づいてみると――
そこには誰もいない。
「……今、顔あったよな?」
そう言った瞬間、遠くの関屋分水路から、
ポチャ……
と水音がした。
二人が川を見る。
街灯に照らされた水面に、何かが浮かんでいた。
白いもの。
ボールのようにも見える。
「誰かのボールじゃない?」
そう言って目を凝らした。
だが、それはボールではなかった。
人の頭だった。
しかも、流されていない。
水の流れがあるはずなのに、同じ場所にじっと浮かんでいる。
そして――
少しずつこちらへ近づいてくる。
二人は逃げようとした。
その瞬間、水面の顔がゆっくりとこちらを向いた。
暗闇の中でも、はっきり分かった。
その顔は、
笑っていた。
二人は一気に公園の出口へ走った。
しかし、背後から聞こえてきたのは水音ではなかった。
「……待って」
女の声だった。
振り返ってはいけない。
そう思いながらも、一人が振り返る。
そこには、タコの滑り台の前に立つ男女の姿があった。
二人とも濡れた服を着ている。
そして、その二人の足元から――
黒い水が、ゆっくりと地面を這うようにこちらへ広がっていた。
翌朝。
公園には何も変わった様子はなかった。
ただ、関屋分水路の水面には、誰にも触れられていないはずの場所に、
小さな手形がいくつも残っていたという。
そして今でも、この場所では夜の水面に「人の顔を見た」という噂が残っている。
もちろん、これらはあくまで心霊スポットとして語られている噂話だ。
けれど――
もし深夜、この場所で水面から自分を見つめる顔を見つけても、
決して近づかないほうがいい。
その顔が、水の中からこちらへ近づいてくる前に。
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