高嶺城跡――山の上から聞こえる足音
高嶺城跡――。
山口県の山の上に残る、かつての城跡。
昼間は木々の間から町を見下ろす静かな場所だが、日が落ちると、あたりの空気は一変する。
これは、ある男性が高嶺城跡を訪れたときの話だ。
その男性は、夜の山道を歩くのが好きだった。
ある秋の夜、彼は一人で高嶺城跡を訪れた。
時計を見ると、午後11時を少し過ぎていた。
懐中電灯を手に、暗い山道を登っていく。
周囲には木々しかない。
風が吹くたび、葉が擦れる音がする。
しばらく歩いたところで、男性は妙な音を聞いた。
「……ザッ……ザッ……」
後ろから、誰かが歩いてくる。
最初は気にしなかった。
山道では、木の枝が落ちたり、動物が歩いたりすることもある。
しかし、その音は一定の間隔で近づいてきた。
「ザッ……ザッ……ザッ……」
男性が立ち止まる。
すると――
音も止まった。
振り返って懐中電灯を向ける。
そこには、誰もいない。
「気のせいか……」
そう呟き、再び歩き出した。
すると今度は――
「ザッ……ザッ……」
また後ろから足音が始まった。
しかも、さっきより近い。
男性は振り返らず、そのまま歩き続けた。
やがて城跡に近づいたところで、足音が突然消えた。
男性は少し安心した。
そして開けた場所に出る。
そこからは、夜の町が見下ろせた。
静まり返った山の上。
男性は景色を眺めながら、しばらく立っていた。
そのときだった。
背後から、
「……まだいるのか」
低い声が聞こえた。
男性は凍りついた。
明らかに人の声だった。
しかも、すぐ後ろ。
慌てて振り返る。
しかし、誰もいない。
懐中電灯で周囲を照らしても、人影は見つからない。
怖くなった男性は、すぐに山を下りることにした。
ところが――
帰り道で、妙なことに気づいた。
自分の足音のほかに、もう一つ音がする。
「ザッ……ザッ……」
また後ろからついてくる。
男性は走り出した。
すると、後ろの足音も速くなる。
「ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……」
必死に山道を下り、ようやく車のところまで戻った。
ドアを開け、車に乗り込む。
エンジンをかけようとした、その瞬間――
後部座席から、
「……帰るのか?」
声がした。
男性は声にならない悲鳴を上げた。
恐る恐るバックミラーを見る。
後部座席には誰もいない。
だが――
シートの上に、濡れた土がいくつも落ちていた。
まるで、誰かが泥だらけの靴で座ったように。
男性はそのまま車を走らせ、二度と夜の高嶺城跡へ行くことはなかった。
そして後日。
撮影していた写真を整理していると、一枚だけ妙な写真が見つかった。
城跡から町を撮影した写真。
そこには何も写っていない。
……はずだった。
写真の端。
木々の向こうに、ぼんやりと立つ人影があった。
男性は拡大して、その姿を見た。
人影は、こちらを見ていた。
そして、その足元には――
山道をこちらへ向かって続く、
無数の濡れた足跡が写っていたという。
それ以来、男性は高嶺城跡の名前を聞くだけで、あの夜の足音を思い出すという。
「ザッ……ザッ……」
あの足音は、本当に彼の後ろから来ていたのだろうか。
それとも――
最初から、車の後部座席に誰かが乗っていたのだろうか。
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