眉山ドライブウェイ――バックミラーに映ったもの

それは、まだ夏の暑さが残っていた頃の話だった。

仕事を終えた私は、友人と二人で夜のドライブに出かけた。

特に目的地があったわけではない。

「久しぶりに眉山でも上ってみるか」

友人がそう言ったので、徳島市内から眉山ドライブウェイへ向かった。

時刻は午後十一時を過ぎていた。

山道に入ると、街の明かりが少しずつ遠ざかっていく。

窓を開けると、夏なのに山の空気はひんやりしていた。

車のヘッドライトだけが、暗い道路を細長く照らしている。

カーブを一つ曲がったところで、友人が突然、

「……今、誰かいた?」

と言った。

「え?」

私は前を見た。

道路には誰もいない。

「何が?」

「いや……今、道路の端に立ってたように見えた」

「人?」

「たぶん」

そう言いながらも、友人は少し気味悪そうにしていた。

私は気のせいだと思った。

木の影か、標識か何かを人と見間違えたのだろう。

そのまま車を走らせた。

しばらくすると、道路脇に白いガードレールが見えてきた。

その先には、街の明かりが広がっていた。

せっかくだから夜景を見ようと、少し先の展望できそうな場所で車を停めた。

エンジンを切る。

車内が急に静かになった。

遠くに徳島市街の明かりが見える。

「やっぱり夜に来ると綺麗だな」

私がそう言うと、友人は返事をしなかった。

「どうした?」

「……後ろ、見てみ」

「何が?」

友人は振り返らず、バックミラーを指差した。

私は何気なくミラーを見た。

後部座席には、もちろん誰もいない。

だが――

ミラーの端に、白っぽいものが映っていた。

一瞬、人の顔のように見えた。

私は反射的に振り返った。

当然、そこには何もない。

「何もいないぞ」

そう言って前を向いた瞬間だった。

車の後ろから、

コン……

と、小さな音がした。

二人とも黙った。

また、

コン……

今度は、はっきり聞こえた。

まるで誰かが車の後部を指で叩いているような音だった。

「……動物かな」

友人が小さな声で言った。

私はエンジンをかけた。

そして、その場を離れることにした。

山を下り始めてすぐだった。

友人がバックミラーを見ながら、

「……まだいる」

と言った。

「何が?」

「さっきの……白い人」

私はミラーを見た。

何もいない。

「どこに?」

「今、カーブのところ……」

私はブレーキを踏みかけた。

しかし、友人が突然、

「止まらないで!」

と叫んだ。

その声に驚いて、私はそのまま車を走らせた。

しばらくして、友人が震える声で言った。

「さっきの人……道路に立ってたんじゃない」

「じゃあ、何だったんだよ」

「……車のすぐ後ろにいた」

私は何も言えなかった。

その瞬間――

後部座席から、

「コン……」

という音がした。

二人とも凍りついた。

もう一度、

コン……

今度は、さっきより近い。

私はアクセルを踏み込んだ。

そして、街の明かりが見える場所まで一気に山を下りた。

市街地に戻ってから、ようやく車を停めた。

友人はしばらく何も話さなかった。

そして、震える手でスマートフォンを取り出した。

「これ……」

画面には、先ほど展望できる場所で撮った夜景の写真が表示されていた。

私は写真を見て、言葉を失った。

夜景の向こう側。

車の後部座席の窓に――

白い顔が映っていた。

しかも、その顔は外から車内を覗き込むようにして、

こちらをじっと見ていた。

私たちはその写真を消し、二度と夜の眉山へ行かなくなった。

ただ、後日、車を点検したとき。

後部座席側のドアに、奇妙な跡が残っていることに気づいた。

泥でも傷でもない。

人の指で触ったような、

白い五本の跡。

それは、車の外側から――

内側へ向かって伸びていた。

コメント