高松公園――池のほとりに立つ女

夜の高松公園は、昼間とはまるで違う場所に見える。

昼間なら、池の水面に木々が映り、散歩をする人の姿もある。
しかし、日が落ちてしばらくすると、公園の中は急に静かになる。

これは、ある男性が体験した話だ。

数年前の秋、男性は仕事帰りに高松公園の近くを通った。

時計を見ると、午後11時を少し過ぎていた。

「少し歩いてから帰るか」

そう思った男性は、夜の公園へ入った。

街灯はあるものの、場所によってはかなり暗い。
池の周辺まで歩いていくと、風もほとんどなく、水面は鏡のように静まり返っていた。

そのときだった。

池の向こう側に、人が立っているのが見えた。

白っぽい服を着た女性だった。

こんな時間に一人で何をしているのだろう。

男性は少し気になったが、そのまま歩き続けた。

ところが、しばらくすると妙なことに気づいた。

女性が、ずっとこちらを見ている。

男性が立ち止まると、女性も動かない。

そして男性が歩き出すと――

女性の姿が、少しずつこちらへ近づいてきた。

最初は池の向こう側だったはずなのに、気づけば池のすぐそばまで来ている。

男性は怖くなり、目をそらした。

そして数秒後、もう一度女性を見る。

――いない。

池の周囲を見回しても、どこにも姿はなかった。

「帰ろう……」

男性はそう呟き、急いで公園の出口へ向かった。

その途中だった。

背後から、

「……ねえ」

小さな女の声が聞こえた。

男性は振り返らなかった。

すると今度は、

「……待って」

さっきより近い。

男性は走り出した。

公園を出て、明るい道路まで出る。

そこでようやく振り返った。

誰もいない。

安心した男性は、息を整えながらスマートフォンを取り出した。

その画面を見た瞬間、背筋が凍った。

さっきまで何も映っていなかったはずのスマートフォンの黒い画面に、

――白い服の女性が映っていた。

しかも女性は、男性の背後ではなく、

すぐ隣に立っていた。

男性は恐ろしくなり、画面を閉じた。

それ以来、男性は夜の高松公園には近づいていないという。

高松公園の池は、昼間は穏やかな場所だ。

しかし夜になると、

「池のほとりに、誰かが立っている」

そんな噂を耳にすることがある。

もし夜の高松公園を歩くことがあっても――

池の向こうに立つ人影には、決して近づかないほうがいい。

その人影が、

こちらを見ているとは限らない。

もしかすると――

あなたのすぐ隣に、もう立っているのかもしれない。

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