幽鬼洞――洞窟の奥から聞こえる足音
幽鬼洞――。
そこは、地元では「第一溶岩洞窟」とも呼ばれている場所だった。
周囲には木々が生い茂り、昼間でも洞窟の入口付近は薄暗い。
ある夏の日、二人の若者が肝試しのため、幽鬼洞を訪れた。
時刻は夜の十一時を過ぎていた。
懐中電灯を手に、二人は笑いながら洞窟の中へ入っていった。
「思ったより狭いな」
「奥まで行ってみようぜ」
入口から数メートル進むと、外の音が急に聞こえなくなった。
風の音も、虫の声もない。
聞こえるのは、自分たちの足音だけだった。
ザッ……ザッ……。
二人が歩くたび、洞窟の壁に足音が反響する。
ところが、しばらく進んだところで、一人が立ち止まった。
「……今、後ろから足音しなかった?」
もう一人は振り返った。
当然、誰もいない。
「気のせいだろ」
そう言って再び歩き始めた。
しかし――。
ザッ……。
二人が一歩進む。
ザッ……。
少し遅れて、後ろからもう一つの足音が聞こえた。
二人は顔を見合わせた。
今度は、はっきり聞こえた。
「……誰かいる?」
返事はない。
懐中電灯を後ろへ向けても、そこには暗闇しかなかった。
二人は急に怖くなり、来た道を戻ろうとした。
その瞬間だった。
洞窟の奥から――
「……待って」
女の声が聞こえた。
二人は凍りついた。
声は小さかった。
だが、確かに人の声だった。
しかも、すぐ後ろから聞こえたように感じた。
恐る恐る振り返る。
誰もいない。
「もう帰ろう!」
二人は走って出口へ向かった。
しかし、いくら走っても入口が見えてこない。
一本道のはずなのに、洞窟が異様に長く感じられた。
そして背後から――。
ザッ……ザッ……ザッ……。
足音が近づいてくる。
二人の足音ではない。
明らかに、誰かが追いかけてきている。
「走れ!」
二人は必死に走った。
すると突然、前方に外の光が見えた。
二人は転がるように洞窟の外へ飛び出した。
振り返る。
洞窟の入口には、誰もいなかった。
その後、二人は二度と幽鬼洞へ行かなかったという。
しかし、不思議なことが一つだけあった。
帰宅した翌朝。
二人が撮影していたスマートフォンの動画を確認すると、洞窟内で聞こえていた足音が録音されていた。
そして最後の数秒。
映像には誰も映っていないはずなのに、画面の奥から小さな声が入っていた。
「……ひとり、置いていかないで」
それ以来、二人は幽鬼洞の話をすることさえ避けるようになったという。
暗い洞窟の奥で聞こえた足音。
それが誰のものだったのか――今も分かっていない。
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