旧七類トンネル――暗闇の向こうから聞こえた足音

深夜、男は一人で旧七類トンネルを訪れていた。

以前から、このトンネルには奇妙な噂があった。

夜にトンネルへ入ると、誰もいないはずなのに、後ろから足音がついてくる。

しかも、その足音は決して追い越してこない。

「……まあ、よくある怪談だろ」

そう思いながら、男は懐中電灯を手にしてトンネルの中へ入った。

入口を抜けると、外の音が一気に遠ざかった。

聞こえるのは、自分の足音だけ。

……コツ、コツ、コツ。

しばらく歩いたところで、男は足を止めた。

すると――

……コツ。

一つ遅れて、後ろから足音が聞こえた。

男は振り返った。

しかし、そこには誰もいない。

「気のせいか……」

そう呟き、再び歩き始める。

……コツ、コツ、コツ。

そして、数秒後。

……コツ、コツ、コツ。

また聞こえた。

今度は、はっきりと分かった。

自分の足音に合わせるように、誰かが後ろを歩いている。

男は振り返らなかった。

怖かったからだ。

歩く速度を少し上げる。

すると後ろの足音も速くなる。

男が止まる。

……ピタッ。

後ろの足音も止まった。

トンネルの中に、異様な静けさが広がる。

その瞬間だった。

耳元で、誰かが小さな声で呟いた。

「……待って」

男の背中に冷たいものが走った。

声は、すぐ後ろから聞こえた。

だが、振り返ることができない。

そして次の瞬間――

肩に、冷たい手が触れた。

男は反射的に走り出した。

懐中電灯を落とし、暗闇の中を必死に走る。

後ろからは、

……コツ、コツ、コツ。

あの足音が追いかけてくる。

トンネルの出口が見えた。

男は夢中で外へ飛び出した。

そして振り返った。

そこには、誰もいなかった。

ただ、トンネルの暗闇だけが、こちらを覗いているように見えた。

男はそのまま車へ戻った。

エンジンをかけようとした、その時だった。

車内の後部座席から――

「……待って」

あの声が聞こえた。

男はゆっくりとバックミラーを見た。

そこには、誰も座っていなかった。

しかし、曇った後部座席の窓には、

人の手形が、内側から一つだけ残っていたという。

それ以来、男は旧七類トンネルには二度と近づいていない。

そして今でも、夜になると時々思うという。

あの足音は――

トンネルから出てきた自分を、最後まで追いかけてきたのではないかと。

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