岡山市・国道沿いの廃病院――夜の窓に立つ女

岡山市を走る国道沿いに、長いあいだ使われていない古い病院があった。

昼間なら、車の流れに紛れてそれほど気にならない。

しかし夜になると、話は変わる。

建物は黒ずみ、窓ガラスの何枚かは割れ、入口には雑草が伸び放題になっている。

地元では昔から、

「夜にあの病院の前を通ると、二階の窓を見ないほうがいい」

そんな噂があった。

ある夜、仕事帰りの男性が、その国道を車で走っていた。

時刻は午前一時を過ぎていた。

周囲の店はほとんど閉まり、道路を走っている車も少ない。

男性が廃病院の前に差しかかった、その時だった。

何気なく建物を見ると――

二階の窓に、人が立っていた。

「……誰だ?」

男性は一瞬、目を疑った。

真っ暗な病院の中で、白い服を着た女のような人影が、窓の向こうに立っている。

しかも、その女は道路を走る車を見ているようだった。

男性は怖くなり、そのままアクセルを踏んだ。

ところが数百メートルほど進んだところで、なぜか車のエンジンが止まった。

深夜の国道。

周囲には誰もいない。

男性が何度キーを回しても、エンジンはかからない。

その時だった。

後部座席から、

「コン……」

小さな音がした。

男性は振り返った。

何もない。

気のせいだと思い、再び前を向く。

すると今度は、

「コン……コン……」

窓を叩くような音が聞こえた。

男性は恐る恐る、ルームミラーを見た。

そこには――

さっきの廃病院が映っていた。

おかしい。

病院は、もう数百メートルも後ろにあるはずだった。

しかしミラーに映っていたのは、病院の二階の窓。

そして、その窓には――

白い服の女が立っていた。

女はじっとこちらを見ている。

そしてゆっくりと顔を上げると、

窓ガラスに手をついた。

その瞬間。

男性の車の後部座席から、

「コン……」

また音がした。

今度は、はっきり聞こえた。

男性は絶対に振り返らなかった。

何度もキーを回し続け、ようやくエンジンがかかった。

そのまま一気に車を走らせ、コンビニまで逃げ込んだ。

店員に事情を話し、落ち着いてから車を確認すると――

後部座席の窓に、手形が一つだけ残っていた。

大人の手よりも少し小さい。

そして、その手形は外側ではなく、

車内側のガラスについていた。

それ以来、男性は夜中にその国道を通ることを避けるようになった。

後になって地元の人から聞いた話では、昔その病院では、夜間に亡くなった患者を二階の病室から運び出すことがあったという。

もちろん、女の幽霊が出るという話に確かな証拠はない。

ただ、今でも深夜にその付近を通る人の中には、

「廃病院の二階に、人影が見える」

と話す人がいるという。

もし夜の国道で、廃病院の窓に人影を見つけても――

決して、二度見しないほうがいい。

その人影がこちらを見ているとは、

限らないからだ。

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