紅葉橋――川面に浮かんだ首

高知市を流れる鏡川。

その川に架かる紅葉橋には、昔から地元の人の間で、あまり知られたくない話が残っている。

現在では住宅街の中にある、ごく普通の橋。

しかし、昔この辺りは「雁切河原」と呼ばれ、処刑された罪人の首を晒す場所だったという。

そして、夜の紅葉橋には、今でも奇妙な噂がある。

ある夏の夜、一人の男性が友人と二人で紅葉橋を訪れた。

時刻は午前一時を過ぎていた。

二人は橋の上から、暗い鏡川を眺めていた。

街灯に照らされた水面は静かで、虫の声だけが聞こえている。

「何もないな」

友人がそう言った直後だった。

川の下流から、

――ぽちゃん。

小さな水音がした。

二人が同時に川面を見る。

だが、そこには何もない。

「魚じゃない?」

そう言って橋を離れようとした、その時。

もう一度、

――ぽちゃん。

今度は、さっきより近い。

男性が川面を覗き込んだ。

すると、水面の中央に何か白いものが浮かんでいた。

最初はビニール袋だと思った。

しかし、それはゆっくりとこちらへ流れてくる。

街灯の光が、その白いものを照らした。

二人は言葉を失った。

それは、人間の顔だった。

しかも首から下がない。

水面に、首だけが浮かんでいる。

目は閉じていた。

ところが――

橋の真下まで流れてきた瞬間。

その目が、ゆっくり開いた。

二人は叫び声を上げ、橋から逃げた。

走っている途中、背後から声が聞こえた。

「……返して……」

二人は振り返らなかった。

だが、声はどんどん近づいてくる。

「……返して……」

そして橋を渡り終えた瞬間。

突然、友人が立ち止まった。

「どうした?」

男性が振り返る。

友人は青ざめた顔で、橋の方向を指差していた。

「……あそこ」

橋の中央に、誰かが立っている。

街灯の下に立っていたのは、黒い服を着た男だった。

顔は見えない。

ただ、両手を胸の前で抱えている。

よく見ると、その腕の中には――

人間の首があった。

二人はその場から逃げ出した。

翌朝。

男性は昨夜のことを夢だったと思うことにした。

しかし、スマートフォンを見ると、奇妙な写真が一枚残っていた。

撮った覚えのない写真だった。

暗い鏡川。

そして、水面に浮かぶ白い顔。

写真を拡大すると、その顔の目が開いている。

さらに恐ろしいことに、その顔の後ろには橋が写っていた。

そして橋の上には、二人の人影が立っていた。

一人は男性自身。

もう一人は友人。

だが、その二人のすぐ後ろに――

もう一人、知らない男が立っていた。

その男は、こちらを見ながら笑っていた。

それ以来、男性は紅葉橋には二度と近づいていない。

ただ、今でも夜に鏡川の水音を聞くと、あの日の声を思い出すという。

「……返して……」

何を返せと言っているのか。

それを知る者は、誰もいない。

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