ゆずりはトンネル――後ろから聞こえる足音

深夜、友人と二人で山道を走っていた。

目的地へ向かう途中、カーナビに表示されたのが「ゆずりはトンネル」だった。

周囲には街灯がほとんどなく、車のライトだけが暗い道を照らしている。

「ここ、通ってみようぜ」

友人がそう言った。

トンネルの入口に近づくと、妙なことに気づいた。

入口の前では、風が吹いていた。

木々が大きく揺れている。

ところが、トンネルの中だけは、空気が完全に止まっているように見えた。

車で中へ入る。

……ゴォォォ……。

タイヤの音が壁に反響する。

しばらく進んだところで、後ろから、

「コツ……」

という音が聞こえた。

「今の聞こえた?」

友人に聞くと、

「何が?」

と返ってきた。

気のせいだと思い、そのまま走り続けた。

しかし数秒後。

今度ははっきり聞こえた。

「コツ……コツ……」

まるで誰かが、トンネルの中を歩いているような音だった。

しかも、その音は車の後ろから聞こえていた。

バックミラーを見る。

何もいない。

ただ、暗いトンネルが続いている。

「誰か歩いてるんじゃない?」

友人が冗談っぽく笑った。

その直後だった。

車の後部から、

ドンッ!

と大きな衝撃が響いた。

二人とも声を失った。

何かが車にぶつかったような音だった。

友人が車を止めようとしたが、

「止めるな!」

思わず叫んだ。

理由は分からなかった。

ただ、なぜか止まってはいけない気がした。

車を走らせ続ける。

すると今度は、

「コツ……コツ……コツ……」

足音が聞こえ始めた。

しかも今度は、車の後ろではない。

車の真横からだった。

窓の外を何かが走っている。

だが、ライトを向けても何も見えない。

そして突然、助手席の窓に、

「コン……」

と何かが触れた。

友人が恐る恐る窓を見る。

そこには何もなかった。

しかし、窓ガラスには、

濡れた手形が一つだけ残っていた。

「早く出よう……」

友人の声が震えていた。

ようやくトンネルの出口が見えた。

出口まであと少し。

その瞬間、後部座席から、

「……まだ出ないで」

と声がした。

二人とも凍りついた。

車には、最初から二人しか乗っていない。

ゆっくりバックミラーを見る。

後部座席は真っ暗だった。

そして、その暗闇の中から、

誰かがこちらを見ている。

顔は見えない。

ただ、白く濁った二つの目だけが浮かんでいた。

友人がアクセルを踏み込む。

車はトンネルを飛び出した。

外に出た瞬間、後ろから、

ドンッ!

と最後の衝撃が響いた。

怖くて振り返ることができなかった。

そのまま山を下り、明るい場所まで移動してから車を確認した。

後部には、何もなかった。

傷もない。

だが、車内を見た瞬間、二人は言葉を失った。

後部座席のシートに、

泥で濡れた足跡が二つ。

それはトンネルの奥から歩いてきたように、

後部座席から運転席へ向かって続いていた。

そして最後の足跡は、

運転席の真後ろで止まっていた。

その夜以来、二人はゆずりはトンネルを通っていない。

ただ友人は後になって、こう話していた。

「あのとき……トンネルを出る直前に、バックミラーを見たんだ」

「後ろにいたものが、笑ってた」

「でも、一番怖かったのは……」

「そいつが、俺たちじゃなくて、車の外を見ていたことなんだ」

その視線の先に何があったのか。

今でも、二人には分からない。

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