静山荘――夜になると聞こえる足音

山の中に、ひっそりと建つ古い建物があった。

名前は――静山荘。

昼間に見ると、ただ古びた建物にしか見えない。

しかし、日が落ちると雰囲気が一変する。

窓は暗く、建物の中からは何の音もしない。

ある夏の夜、友人と二人でその近くまで行ったことがある。

時刻は、午後11時を少し過ぎていた。

懐中電灯を手に、建物の前まで近づいた。

「……本当に誰もいないのかな」

友人がそう言った直後だった。

建物の二階から、

トン……トン……

と、何かを叩くような音が聞こえた。

二人とも、その場で立ち止まった。

「今の聞いた?」

「ああ……」

風の音かもしれない。

そう思ってしばらく待っていると、今度は、

ギシ……ギシ……

と、床を踏みしめるような音がした。

しかも、その音は少しずつ近づいてくる。

二階から階段を下りてくるように、

ギシ……

ギシ……

ギシ……

音が一段ずつ近づいてきた。

しかし、階段には誰もいない。

懐中電灯で照らしても、暗い階段が見えるだけだった。

「帰ろう」

友人が小声で言った。

その瞬間――

玄関の奥から、

ドンッ!

という大きな音が響いた。

二人は慌てて走り出した。

建物から離れ、山道を下っている途中だった。

後ろから、

タッ……タッ……タッ……

と、誰かが走ってくる音が聞こえた。

振り返る。

誰もいない。

また走る。

すると、今度は足音も同じ速度でついてくる。

怖くなって、二人とも一気に山道を駆け下りた。

ようやく車まで戻り、ドアを閉めた。

そしてエンジンをかけようとした、その時だった。

友人が突然、黙り込んだ。

「……どうした?」

友人は震えながら、静山荘の方向を指差した。

遠くに見える建物の二階。

さっきまで真っ暗だった窓に、

白い人影が立っていた。

こちらを見ているようだった。

そして、その人影はゆっくりと窓に顔を近づけると――

まるでこちらを追いかけるように、

手を振った。

その瞬間、車の後部座席から、

ギシ……

と、座席が沈む音がした。

二人とも、声が出なかった。

誰も乗っていないはずの後部座席。

それなのに――

もう一度、

ギシ……

と、誰かが座り直す音がした。

それ以来、二人は静山荘の近くには二度と近づいていないという。

そして友人は今でも、

「山の中で聞こえる足音が、自分たちの歩く音と同じ速さなら……それは後ろから来ているんじゃない」

そう言っている。

すでに、隣を歩いているのだと。

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