石伐坂(W坂)――坂の途中で振り返る女

石伐坂――通称「W坂」。

長崎市内にあるこの坂は、昼間は学生や地元の人が行き交う、ごく普通の坂道だ。

しかし、夜になると雰囲気が変わる。

これは、ある大学生が友人から聞いた話だ。

その学生は、深夜に友人と別れ、一人でW坂を歩いていた。

時計を見ると、午前0時を少し過ぎた頃。

辺りには人影がなく、坂道を上る自分の足音だけが響いていた。

「……コツ、コツ、コツ」

しばらく歩いていると、背後から別の足音が聞こえてきた。

「コツ……コツ……」

誰かが後ろから歩いている。

そう思った学生は、少しだけ歩く速度を上げた。

すると、後ろの足音も同じように速くなる。

気味が悪くなった学生は、振り返らず、そのまま坂を上った。

ところが、足音は突然止まった。

不思議に思って立ち止まる。

後ろを振り返ってみても、そこには誰もいない。

「気のせいか……」

そう思って再び歩き始めた、その時だった。

今度は、すぐ耳元で女の声がした。

「……ねえ」

驚いて振り返る。

やはり誰もいない。

しかし、坂の途中にある街灯の下に、白っぽい服を着た女が立っていた。

長い髪で顔はよく見えない。

女はこちらをじっと見ている。

学生が立ち止まると、女はゆっくり歩き始めた。

一歩。

また一歩。

そして、突然立ち止まると、首だけを不自然な角度に傾けた。

学生は怖くなり、走って坂を上った。

後ろを見ることはできなかった。

ただ、背後から聞こえてくる足音だけが、ずっと追いかけてきた。

「コツ……コツ……コツ……」

坂を上り切ったところで、学生はようやく振り返った。

そこには誰もいなかった。

ところが翌朝。

スマートフォンを確認すると、昨夜撮った覚えのない写真が一枚保存されていた。

写真に写っていたのは、暗いW坂。

そして、その坂の途中に立つ女。

女はカメラに背を向けていた。

しかし、顔だけはこちらを向いていた。

その顔を見た瞬間、学生は背筋が凍った。

なぜなら――

写真の女は、昨夜坂の途中で見た女と同じ服を着ていた。

そして写真の撮影時刻は、学生が坂を走っていた時間だった。

それ以来、その学生は夜のW坂を一人で歩かなくなったという。

もし深夜、この坂を歩くことがあっても――

背後から足音が聞こえても、決して振り返ってはいけない。

「コツ……コツ……」

その足音が、あなたのすぐ後ろまで近づいているかもしれないからだ。

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