青森のワンダーランド――帰れない遊園地
青森県の山あいに、かつて「ワンダーランド」と呼ばれた場所があった。
今では人の気配もなく、古びた建物だけが残っている。
地元では昔から、こんな噂があった。
「夜になると、誰もいないはずの遊園地から音楽が聞こえる」
ある夏の夜、二人の若者がその場所を訪れた。
「本当に何か出るのかな」
懐中電灯を片手に、暗い敷地へ入っていく。
錆びた遊具。
割れた窓。
雑草に覆われた道。
そして奥には、古い観覧車が立っていた。
風もないのに、ゆっくりと一つのゴンドラが揺れている。
その瞬間――
♪ポロン……ポロン……
どこからか、古い遊園地の音楽が流れ始めた。
「……今、聞こえた?」
二人が顔を見合わせる。
すると、暗闇の中から、
「次のお客様……どうぞ……」
という女の声がした。
声のした方向を見ると、そこには古びたチケット売り場があった。
窓は割れている。
当然、中には誰もいない。
しかし机の上には、一枚のチケットが置かれていた。
チケットには、こう書かれていた。
「ワンダーランド 一名様」
二人は怖くなり、急いで入口へ戻ろうとした。
ところが――
来たはずの道がない。
何度歩いても、同じ観覧車の前に戻ってきてしまう。
そして、さっきまで止まっていた遊具が次々に動き始めた。
メリーゴーラウンドが回る。
空っぽのコーヒーカップが回る。
誰もいないゲームコーナーから、景品が落ちる音がする。
カラン……。
カラン……。
そのとき、一人が気づいた。
観覧車のゴンドラに、人影が座っている。
「……あれ、誰?」
懐中電灯を向ける。
そこに座っていたのは、白い服を着た女だった。
女はゆっくり顔を上げた。
そして――
こちらに向かって手を振った。
二人は悲鳴を上げ、無我夢中で走った。
すると突然、目の前に入口の門が現れた。
「出口だ!」
二人は外へ飛び出した。
振り返る。
そこには、ただ暗い森があるだけだった。
翌朝。
二人は昨夜の出来事を誰にも信じてもらえなかった。
しかし、撮影していたカメラを確認すると、最後の数分間だけ映像が残っていた。
暗い遊園地。
回り続ける観覧車。
そして最後の一枚。
観覧車のゴンドラの中に、女が座っている。
その女は、カメラを見ながら笑っていた。
さらに映像の最後には、小さな声が録音されていた。
「……次は、ひとりで来てね」
それ以来、二人は二度とその場所へ近づかなかったという。
ただ、地元では今でも――
夜の山道を通ると、どこからともなく遊園地の音楽が聞こえることがあるらしい。
そして音楽が聞こえたとき、
絶対に振り返ってはいけない。
振り返ると、そこには――
もう閉園したはずの「ワンダーランド」の入口が、立っているという。
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