織田信長居館跡――夜の庭に立つ男

岐阜城へ向かう山のふもとに、織田信長の居館跡が残っている。

昼間は観光客も多く、石垣や庭園跡を眺めながら歩くことができる場所だ。

これは、ある男性が夜にこの場所を訪れたときの話だ。

男性は歴史が好きで、昼間とは違う雰囲気を見てみたいと思い、日が落ちたあとに周辺を歩いていた。

山の中は思った以上に静かだった。

街の明かりは遠く、聞こえてくるのは木の葉が風に揺れる音だけ。

男性が居館跡の石垣を眺めていると、ふと前方に人影が見えた。

黒っぽい着物のようなものを着た男だった。

「こんな時間に誰かいるのか?」

そう思った男性は、少し離れた場所から男を見ていた。

男は石垣の前に立ったまま、じっと動かない。

顔はこちらを向いていない。

男性が声をかけようと一歩近づいた、その瞬間だった。

男がゆっくり振り返った。

暗くて顔はよく見えない。

しかし、なぜか男性には、その男が自分を睨んでいることだけは分かった。

そして男が低い声で言った。

「……まだ、帰らぬのか」

男性は意味が分からなかった。

その声を聞いた瞬間、周囲の空気が急に冷たくなった。

男はゆっくりと山の奥へ歩き始めた。

男性も反射的にその後を目で追った。

ところが――

数秒後。

男の姿は完全に消えていた。

道は一本しかない。

隠れられる場所もない。

男性は怖くなり、その場を離れた。

そして駐車場まで戻ったところで、何気なくスマートフォンを確認した。

時刻は午前0時を過ぎていた。

だが、男性が最も恐ろしくなったのはその後だった。

撮った覚えのない写真が、スマートフォンに一枚だけ残っていた。

そこには夜の石垣が写っていた。

そして石垣の前に――

黒い服を着た男が立っていた。

男はこちらを向いている。

写真を拡大すると、暗闇の中に顔が浮かび上がった。

その顔を見た瞬間、男性はスマートフォンを落とした。

そこに写っていた男は、先ほど自分が見た男と同じだった。

しかし――

写真の男は、男性が実際に見たときよりもずっと近くに立っていた。

まるで撮影者のすぐ後ろから、こちらを見ているように。

それ以来、男性は夜になると、ときどきあの声を聞くという。

「……まだ、帰らぬのか」

その声が聞こえたとき、決して振り返ってはいけない。

なぜなら男性によれば――

二度目にその声を聞いたときは、

すぐ耳元から聞こえたという。

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