青い家跡――窓の向こうにいるもの
福井県の山あいに、かつて一軒の古い家が建っていた。
その家は、いつしか誰も住まなくなり、長い年月の間に荒れ果てていった。
特徴的だったのは、外壁に残った青い色。
周囲の木々に囲まれたその家は、昼間でもどこか薄暗く、近づくと妙な圧迫感を覚える場所だったという。
ある夜、二人の若者がその家跡を訪れた。
「本当にここ?」
懐中電灯を照らしながら、一人がそう尋ねた。
もう一人は無言で頷いた。
建物はすでにかなり傷んでいて、窓ガラスの割れた場所から冷たい風が吹き込んでいた。
二人が敷地の前まで来た、そのときだった。
――コン。
どこからか、小さな音が聞こえた。
「今の何?」
二人は立ち止まった。
――コン。
今度は、はっきり聞こえた。
音の方向を見ると、古い窓が一枚だけ残っている。
「風じゃない?」
そう言いながら、一人が懐中電灯を向けた。
窓の向こうは真っ暗だった。
ところが次の瞬間。
ライトの端に、何か白いものが映った。
人の顔のようにも見えた。
「……今、誰かいた?」
二人が慌ててライトを向け直す。
しかし、そこには何もない。
ただ、暗い室内が広がっているだけだった。
怖くなった二人は、その場を離れようとした。
そのときだった。
背後から、
「……まだ、いるよ」
小さな声が聞こえた。
二人は同時に振り返った。
誰もいない。
しかし、もう一度窓を見ると――
さっきまで真っ暗だった窓の奥に、白い顔が浮かんでいた。
こちらをじっと見ている。
目だけが異様に大きく、まったく瞬きをしない。
二人は声も出せず、その場から走って逃げた。
車まで戻り、急いでエンジンをかける。
そして車を発進させた直後。
助手席の男が、ふと後ろを振り返った。
青い家跡が、木々の向こうに小さく見えている。
その窓に――
まだ誰かが立っていた。
男は目を疑った。
その人物は、こちらを見ながらゆっくりと手を上げていた。
まるで、
「また来てね」
とでも言うように。
それ以来、二人はその場所について一切話さなくなったという。
そして後日。
車の中を撮影した写真を整理していた男は、一枚の写真を見つけた。
逃げる直前、無意識に撮影されていた写真だった。
そこには二人の姿と、暗い青い家。
そして――
二階の窓から、こちらを覗き込む白い顔が写っていた。
その顔は、二人が逃げる前に見たものと同じだった。
ただ一つ違っていた。
写真の中では、その顔が窓の外ではなく――
車のすぐ後ろに立っていた。
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