旧信越線トンネル群――誰もいないはずの列車

山あいに残る、旧信越線のトンネル群。

現在では使われなくなったトンネルの中には、昼間でも薄暗く、入口から少し進むだけで外の音がほとんど聞こえなくなる場所がある。

ある夏の夕方、二人の男性がその周辺を訪れた。

目的は、古い鉄道施設を写真に収めることだった。

「思ったより静かだな」

一人がそう言った。

もう一人が笑いながら、

「昔はここを列車が走ってたんだろ。今じゃ信じられないな」

そう答えた。

二人は懐中電灯を手に、トンネルの中へ入っていった。

数十メートル進んだところで、突然だった。

――ゴォォォ……。

遠くから、低い音が聞こえた。

最初は風の音だと思った。

しかし、音は少しずつ大きくなっていく。

「……今の、何?」

二人は立ち止まった。

耳を澄ます。

――ガタン……ガタン……。

線路を列車が走るような音だった。

だが、そこにはもう列車が走れる線路など残っていない。

「気のせいだろ」

そう言って先へ進もうとした瞬間。

トンネルの奥から、はっきりと汽笛が響いた。

――ポォォォォォ……。

二人は思わず顔を見合わせた。

そして次の瞬間、懐中電灯の光の先に、白い人影が立っているのが見えた。

線路の中央。

こちらに背を向けたまま、じっと立っている。

「誰かいるのか?」

声をかけても動かない。

一歩近づく。

すると人影が、ゆっくりと振り返った。

顔は見えなかった。

ただ、暗闇の中に二つの白い目だけが浮かんでいた。

二人は反射的に走り出した。

後ろから、再び音が聞こえる。

――ガタン、ガタン、ガタン……。

まるで列車が二人を追いかけてくるようだった。

トンネルの出口が見えてきた。

「もう少しだ!」

そう叫んだ瞬間、背後から低い声がした。

「……次は、乗っていけ」

二人は振り返らなかった。

そのまま外へ飛び出し、しばらく山道を走り続けた。

車に戻ってから、二人は撮影した写真を確認した。

ところが、最後に撮った一枚だけがおかしかった。

トンネルの奥。

誰もいないはずの場所に、古い列車が写っていた。

しかも、その列車の窓には無数の人影が並んでいる。

全員がこちらを見ていた。

そして写真を拡大したとき、二人は言葉を失った。

列車の一番前の窓。

そこには、さっきトンネル内で見た白い目の人物が立っていた。

それ以来、二人は旧信越線のトンネルには近づいていない。

ただ、一人は今でも時々、夜中に列車の音を聞くという。

――ガタン……ガタン……。

その音は、決まって自宅のすぐ近くで止まる。

そして最後に、決まったように汽笛が鳴る。

――ポォォォォォ……。

まるで、どこかへ連れて行こうとするかのように。

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