北海道の青い屋根の家

その町には、一軒だけ妙に目立つ家があった。

古びた木造の家なのに、屋根だけが鮮やかな青色をしている。

近所の人たちは、いつからそこに建っているのか誰も知らなかった。

ただ、昔から一つだけ、妙な噂があった。

「あの家の屋根を、夜に見ちゃいけない」

ある夏の夜、私は友人と車でその家の前を通った。

時計は午前一時を過ぎていた。

街灯の少ない道の先に、青い屋根がぼんやり浮かんでいる。

「……あれ、まだ人住んでるのかな?」

そう言って友人が車を止めた。

家の窓はすべて真っ暗だった。

ところが、よく見ると二階の窓だけ、薄暗い明かりが漏れている。

「誰かいるんじゃない?」

私がそう言った瞬間だった。

二階の窓に、人影が立った。

白い服を着た女のように見えた。

じっとこちらを見ている。

「やばい、行こう」

友人が車を発進させた。

そのとき――

車の後部座席から、

コン、コン、コン……

と、窓を叩く音がした。

私たちは凍りついた。

後ろには誰も乗っていない。

それでも音は続く。

コン、コン、コン。

やがて音は止まった。

少し安心して、私はバックミラーを見た。

すると、そこに――

青い屋根の家が映っていた。

おかしい。

車はもう、かなり離れた場所を走っている。

それなのに、家だけがずっと後ろにある。

そして二階の窓には、さっきの女が立っていた。

ただ一つ違っていた。

今度は女が、こちらを見ていなかった。

私の隣を見ていた。

恐る恐る横を見る。

そこには誰もいない。

その瞬間、耳元で女の声がした。

「……屋根、見たでしょう?」

翌朝、私たちは車を確認した。

後部座席の窓には、内側から指でなぞったような跡が残っていた。

そして、その跡の下に――

青いペンキで、小さく文字が書かれていた。

「次は、家の中から見てね」

それ以来、私たちは二度とその道を通っていない。

ただ、不思議なことが一つある。

あの夜から何年経っても、私の夢には必ずあの青い屋根が出てくる。

そして夢の中ではいつも、

二階の窓から誰かがこちらを見ている。

最近になって、ようやく気づいた。

夢の中で、窓の女が立っている場所は――

二階ではなかった。

私の部屋の窓だった。

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