じゅんさい池公園――水面に浮かぶ顔
夏の夜、友人と二人でじゅんさい池公園を訪れた。
昼間は自然に囲まれた静かな公園だが、夜になると雰囲気が一変する。
街灯の少ない遊歩道を歩いていると、木々の隙間から池が見えた。
風はほとんどない。
それなのに、水面だけが小さく揺れていた。
「……誰かいるんじゃない?」
友人が池を指差した。
最初は、水鳥か何かだと思った。
しかし、よく見ると違った。
水面の中央に、白いものが浮かんでいる。
近づいて目を凝らす。
それは、人の顔だった。
長い髪を水に漂わせ、こちらをじっと見つめている。
「……女の人?」
そう呟いた瞬間、その顔がゆっくりと沈み始めた。
まるで池の底から、誰かに引っ張られているようだった。
そして完全に消えた。
二人とも言葉を失った。
その場から離れようとした、そのときだった。
背後から、
「……見つけた」
小さな女の声が聞こえた。
振り返っても誰もいない。
怖くなって走って車まで戻った。
そして車に乗り込み、エンジンをかけようとした。
ところが――
突然、
「ガチャッ」
ドアロックが解除された。
誰も触っていない。
友人と顔を見合わせる。
すると、今度は反対側のドアが、
「ガチャッ」
と開錠された。
その瞬間、池の方向から赤い光が見えた。
林の奥を、ゆっくりこちらへ近づいてくる。
「もう帰ろう!」
友人が叫び、車を急発進させた。
公園を出るまで、二人とも一度も後ろを振り返らなかった。
翌朝。
友人から一枚の写真が送られてきた。
昨夜、池を撮影した写真だった。
画面には暗い池と木々しか写っていない。
だが、写真を拡大すると――
水面の中央に、白い顔が浮かんでいた。
そして、その顔の横には、
昨夜そこにいたはずのない、
もう一人の顔が写っていた。
二つの顔は、こちらを見て笑っていた。
それ以来、友人は二度とじゅんさい池公園には行かなくなった。
そして今でも、夜に車へ乗り込むときだけは、必ず後部座席を確認するという。
なぜなら――
あの日から時々、
誰も乗っていないはずの後部座席から、
水が滴る音が聞こえるからだ。
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