旧関山トンネルの向こう側
- リンクを取得
- ×
- メール
- 他のアプリ
深夜の関山峠。
車のライトが照らす山道には、ほかに車の姿はなかった。
「本当に、この先にあるのか?」
助手席の友人がスマートフォンを見ながら答えた。
「昔の関山トンネル。今は使われてないらしい」
やがて、木々の隙間から古びたトンネルの入口が見えてきた。
車を降りると、山の中とは思えないほど静かだった。
風の音さえしない。
二人は懐中電灯を持って、ゆっくりとトンネルへ入った。
入口から数十メートル進んだところで、後ろから――
「……カン、カン……」
金属を叩くような音が聞こえた。
「今の聞いた?」
振り返る。
もちろん、誰もいない。
「何か落ちたんじゃない?」
そう言って歩き続けた。
ところが、しばらくすると奇妙なことに気づいた。
さっきまで二人の足音しか響いていなかったトンネルに、
もう一つ、足音が混じっている。
タッ……タッ……タッ……
二人が止まる。
足音も止まる。
歩く。
足音も歩く。
「……俺たち以外に誰かいる?」
友人が小声で言った。
その瞬間。
トンネルの奥から、女の声がした。
「待って……」
二人は顔を見合わせた。
逃げようとした、そのときだった。
懐中電灯が一瞬だけ消えた。
真っ暗闇。
そして闇の中から、
「……先に行かないで」
今度は、すぐ後ろから聞こえた。
恐る恐る振り返る。
ライトが復旧する。
そこには誰もいない。
ただ、壁際の水たまりに――
裸足の足跡が一つだけ残っていた。
しかも、その足跡は二人のいる方向へ向かって続いている。
そして最後の一歩は、
二人の足元で途切れていた。
「もう帰ろう!」
二人は一気に入口へ走った。
ところが、いくら走っても入口が見えてこない。
同じ景色。
同じ壁。
同じ水たまり。
まるでトンネルそのものが伸びているようだった。
そのとき、前方に人影が見えた。
「人だ!」
助かったと思った。
しかし、近づいてみると、その人物はトンネルの壁に向かって立っていた。
白い服。
長い髪。
「すみません!」
声をかける。
女はゆっくりと振り返った。
顔は――
なかった。
二人が悲鳴を上げた瞬間、トンネル全体に、
「カン、カン、カン、カン……」
金属を叩く音が響き渡った。
気づくと二人は、トンネルの入口で倒れていた。
夜が明けていた。
しかし友人は、何も覚えていなかった。
そして帰宅後。
撮影していた映像を確認すると、最後の場面だけが残っていた。
真っ暗なトンネル。
二人の後ろを歩く、もう一人の足音。
そして映像の最後に、女性の声が小さく入っていた。
「……どうして置いていったの?」
それ以来、二人は二度と旧関山トンネルへ近づかなかった。
ただ――
撮影した動画を消したはずのスマートフォンには、数日後、新しい動画が一つだけ保存されていた。
タイトルは、
「トンネルの出口」
再生すると、画面の奥に二人の姿が映っている。
そして、その二人の後ろから――
ゆっくりと、顔のない女が歩いてくる。
- リンクを取得
- ×
- メール
- 他のアプリ
コメント
コメントを投稿