鳥取陸軍墓地――午前二時の行進

午前二時。

鳥取市の山あいにある、古い陸軍墓地。

昼間なら、木々の間から墓標や慰霊碑が見えるだけの静かな場所だ。

しかし夜になると、そこには妙な噂がある。

「深夜になると、兵隊の行進する音が聞こえる」

そんな話を聞いた大学生の三人は、半分は肝試しのつもりで、その場所を訪れた。

山道を上っていくと、やがて周囲から町の明かりが消えた。

懐中電灯だけを頼りに進んでいると、

――カツ。

突然、背後から音がした。

「……今、聞こえた?」

三人は立ち止まった。

誰もいない。

風で枝が揺れただけだと思い、再び歩き始める。

すると、

――カツ、カツ、カツ。

今度ははっきり聞こえた。

革靴のような、硬い足音。

しかも一人ではない。

「カツ、カツ、カツ……」

一定の間隔で、何人もの人間が歩いている。

三人は振り返った。

だが、そこには暗い山道しかない。

「気のせいだろ」

そう言って先へ進もうとした、その時だった。

――止まれ。

誰かが、すぐ耳元でそう言った。

三人とも凍りついた。

声がした方向を見る。

もちろん誰もいない。

そして次の瞬間――

墓地の奥から、

「一、二……一、二……」

という小さな掛け声が聞こえてきた。

足音が近づいてくる。

カツ、カツ、カツ、カツ……。

懐中電灯を向けても、誰も見えない。

しかし音だけは確実に近づいてくる。

やがて三人の目の前を、何かが横切った。

軍服姿の男。

顔は見えなかった。

一人。

また一人。

そしてまた一人。

暗闇の中から、次々と兵士が現れては、無言のまま墓地の奥へ消えていく。

三人は声も出せなかった。

最後に現れた兵士だけが、こちらを向いた。

その顔を見た瞬間、三人のうち一人が悲鳴を上げた。

顔が――なかった。

目も鼻も口もない。

ただ真っ黒な顔が、こちらを向いている。

兵士はゆっくり右手を上げた。

そして、

「……点呼」

低い声で呟いた。

その瞬間、墓地全体から無数の声が響いた。

「一!」

「二!」

「三!」

「四!」

声がどんどん増えていく。

三人は必死に逃げ出した。

山道を転げるように下り、ようやく車まで戻った。

車に乗り込み、エンジンをかける。

しかし――

エンジンがかからない。

「なんでだよ!」

何度キーを回しても、車は動かない。

その時だった。

車の外から、

――カツ。

足音がした。

――カツ。

また一歩。

――カツ、カツ、カツ。

無数の軍靴が、車を取り囲んでいた。

三人は息を殺した。

そしてフロントガラスの向こうに、一人の兵士が立った。

顔のない兵士だった。

兵士は敬礼をすると、静かに口を開いた。

「……全員、揃いました」

その瞬間。

車のエンジンが突然かかった。

三人はアクセルを踏み込み、夢中で山を下った。

翌朝。

三人は昨夜撮影した映像を確認した。

そこには、墓地へ向かう三人の姿が映っていた。

しかし――

帰りの映像だけがおかしかった。

三人の後ろに、ずっと誰かが歩いている。

一人。

二人。

三人。

……四人。

三人は映像を止めた。

そして気づいた。

最後尾にいる兵士の手には、古い名簿のようなものが握られている。

そのページには、名前が並んでいた。

一人。

また一人。

そして最後の欄。

そこには、昨夜墓地へ行った三人の名前が――

すでに書かれていた。

その下には、もう一つ空欄があった。

三人が恐る恐る画面を拡大すると、

そこには小さな文字でこう書かれていた。

「次回、補充一名」

その日の夜。

三人のうち一人の携帯電話が鳴った。

画面には、誰からの着信か表示されていない。

ただ、

「鳥取陸軍墓地」

とだけ表示されていた。

電話に出ると、

遠くから軍靴の音が聞こえた。

そして最後に、

「……一名、足りない」

という声がした。

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