根岸森林公園――夜の芝生に立つ女

横浜にある根岸森林公園。

昼間は広い芝生と木々に囲まれた、静かで開放的な公園だ。

しかし、夜になると雰囲気が一変する。

これは、ある男性が深夜に公園を通ったときの話だ。

その男性は仕事帰り、少し遠回りになることを知りながら、根岸森林公園の近くを歩いていた。

時計を見ると、午前零時を過ぎていた。

公園の中は人の気配がなく、街灯もところどころしかない。

「さすがに、この時間は誰もいないか……」

そう思いながら歩いていると、広い芝生の向こうに人影が見えた。

一人の女性が立っていた。

白っぽい服を着て、こちらに背を向けている。

こんな時間に、なぜ女性が一人で立っているのか。

男性は少し気になったが、そのまま通り過ぎようとした。

すると――

女性がゆっくりと振り返った。

距離があったため、顔まではよく見えない。

ただ、こちらをじっと見ていることだけは分かった。

男性は目をそらし、歩く速度を上げた。

すると背後から、

「……待って」

小さな声が聞こえた。

男性は振り返らなかった。

さらに歩く。

すると今度は、

「待って……」

さっきより近い。

まるで後ろから追いかけてきているようだった。

怖くなった男性が、思わず振り返る。

しかし――

誰もいない。

芝生も、木々も、先ほどと変わらない。

女性の姿は完全に消えていた。

男性は急いで公園を出ようとした。

そのとき、前方の街灯の下に人影が見えた。

――さっきの女性だった。

今度は、数十メートル先に立っている。

しかも、こちらを向いている。

男性は立ち止まった。

女性も動かない。

ただ、じっとこちらを見ている。

そして次の瞬間――

女性の姿が、街灯の明かりの中からふっと消えた。

男性は恐ろしくなり、その場から走って逃げたという。

後になって男性が気づいたことがある。

最初に女性を見たとき、彼女はずっと芝生の中央に立っていた。

しかし、その場所には――

人が立っていたような足跡が、どこにも残っていなかったという。

それ以来、男性は深夜の根岸森林公園には近づかなくなった。

広い芝生のどこかには、今夜も誰かが立っているのかもしれない。

街灯の下に現れる、その女性を――。

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