大乗寺丘陵公園――夜景の向こう側
金沢の街を見渡せる場所として知られる、大乗寺丘陵公園。
昼間は家族連れや散歩をする人も多く、芝生の広がる穏やかな公園だ。
しかし、夜になると雰囲気が一変する。
これは、数年前の冬にこの公園を訪れた男性の体験だ。
その男性は、夜景を見ようと友人と二人で公園を訪れた。
時計は午後11時を過ぎていた。
人の姿はほとんどなく、遠くに見える金沢の街明かりだけが、暗闇の中に浮かんでいた。
二人でしばらく夜景を眺めていると、友人が突然、
「……あそこ、誰かいるよな?」
と言った。
指差した先には、少し離れた遊歩道があった。
そこに、黒い服を着た人影が立っていた。
街灯から外れた場所だったため、顔までは見えない。
ただ、こちらを向いていることだけは分かった。
「こんな時間に?」
そう思いながら見ていると、その人影がゆっくり歩き始めた。
ところが、歩いているはずなのに、妙に動きが不自然だった。
足元が見えない。
まるで地面から少し浮いたまま、滑るように近づいてくる。
二人は気味が悪くなり、その場を離れることにした。
駐車場へ向かって歩き始める。
しばらくすると、友人が突然立ち止まった。
「……さっきの人、どこ行った?」
振り返る。
遊歩道には誰もいない。
しかし、その瞬間だった。
背後から、
「すみません……」
女の声が聞こえた。
二人は同時に振り返った。
誰もいない。
気のせいだと思い、今度は急いで駐車場へ向かった。
車に乗り込み、エンジンをかける。
すると友人が、窓の外を見ながら小さな声で言った。
「……まだいる」
男性が慌てて後部座席を見る。
そこには誰もいなかった。
だが、車の後ろにある街灯の下。
先ほどの人影が立っていた。
しかも今度は、はっきりと顔が見えた。
白い顔。
そして、こちらをじっと見つめている。
男性が車を発進させると、人影は追ってこなかった。
そのまま公園を出て、しばらく走ったところで、二人はようやく安心した。
ところが翌朝。
車を確認すると、後部座席の窓に、内側からつけたような手形が残っていた。
二人とも、後部座席には一度も座っていない。
そして何より奇妙だったのは、その手形が――
人間の手よりも、明らかに大きかったことだった。
それ以来、男性は夜の大乗寺丘陵公園には近づいていないという。
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