青山霊園――墓地の奥から聞こえる足音

東京の中心部にありながら、夜になると驚くほど静かになる場所がある。

青山霊園。

昼間は墓参りをする人や、周辺を歩く人の姿もある。

しかし、日が落ちてしばらくすると、広い墓地の中には独特の空気が漂い始めるという。

これは、ある男性が青山霊園を訪れたときの話だ。

男性は仕事帰り、近道をするため霊園の脇を歩いていた。

時計を見ると、午後11時を少し過ぎていた。

街灯はあるものの、墓地の奥は暗い。

すると突然、

「……コツ」

背後から、小さな足音が聞こえた。

振り返る。

誰もいない。

気のせいだと思い、そのまま歩き続けた。

ところが、

「コツ……コツ……」

今度は、はっきり聞こえる。

しかも足音は、男性の歩く速度に合わせるようについてくる。

立ち止まると、足音も止まった。

男性が再び歩き出す。

すると、また――

「コツ……コツ……」

背後から近づいてくる。

怖くなった男性は振り返らず、早足で出口へ向かった。

そのときだった。

すぐ耳元で、女の声がした。

「……待って」

男性は思わず振り返った。

そこには誰もいない。

ただ、暗い墓地が広がっているだけだった。

そして、もう一度前を向いた瞬間。

数メートル先の墓石の横に、白い服を着た女性が立っていた。

顔は見えない。

長い髪が垂れ下がり、じっとこちらを見ているようだった。

男性は恐怖で動けなくなった。

すると女性が、ゆっくりと一歩だけ前へ出た。

その瞬間、周囲の街灯が一斉に消えた。

真っ暗になった。

男性は夢中で走った。

何度も転びそうになりながら、ようやく霊園の外へ出た。

明るい道路まで来て、恐る恐る後ろを見る。

誰もいない。

しかし、男性のスマートフォンには、見覚えのない写真が一枚だけ残っていた。

撮った覚えのない写真。

そこには、暗い墓地と無数の墓石が写っていた。

そして写真の端。

男性のすぐ後ろに――

白い服の女性が立っていた。

それ以来、男性は夜の青山霊園には近づかなくなったという。

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