秋田城跡――夜の門を通る者

夜の秋田城跡は、昼間とはまるで別の場所だった。

昼には静かな史跡として、多くの人が訪れる。
しかし日が落ちると、人の気配は消え、広い敷地には風の音だけが残る。

ある夏の夜、一人の男が秋田城跡を訪れた。

「こんな場所なら、何か撮れるかもしれないな」

そう思い、カメラを片手に歩いていた。

しばらくすると、暗闇の中に古い門のようなものが浮かび上がった。

男がカメラを向ける。

その瞬間――

「……誰か、いる?」

門の向こうに、白い服を着た人影が立っていた。

男は驚きながらも、ゆっくり近づいていった。

しかし、数メートルまで近づいたところで、人影は突然消えた。

「……気のせいか」

そう呟いて振り返った。

すると、さっきまで歩いてきた道の先に、別の人影が立っていた。

今度は、こちらを向いている。

そして――

「帰れ」

低い声が聞こえた。

男は慌てて走り出した。

ところが、どれだけ走っても同じ門の前に戻ってきてしまう。

一度。
二度。
三度。

何度逃げても、必ず同じ場所に戻ってくる。

そして四度目。

門の前に、さっきの白い服の人影が立っていた。

その顔を見た瞬間、男は凍りついた。

顔がなかった。

目も、鼻も、口もない。

ただ真っ白な顔で、じっと男を見つめている。

そして、顔のない人影がゆっくり手を上げた。

指差した先には、暗闇の中にもう一つの人影が立っていた。

今度は――男自身だった。

カメラを持った自分が、少し離れた場所に立っている。

「……俺?」

そう呟いた瞬間、手にしていたカメラが勝手に撮影を始めた。

カシャッ。

カシャッ。

カシャッ。

画面を確認すると、そこには何枚もの写真が映っていた。

すべて同じ場所。

秋田城跡の門。

そして最後の一枚には――

門の前に立つ男と、その背後に無数の人影が写っていた。

男はカメラを落とし、夢中でその場から逃げ出した。

翌朝、カメラだけが門の近くで見つかった。

しかし、男の姿はどこにもなかった。

そしてカメラに残されていた最後の写真。

そこには、夜の秋田城跡と、門の前に立つ無数の人影。

その中央には、昨日まで存在しなかったはずの人物が一人。

白い顔でカメラを見つめながら、こう書かれていた。

「次は、お前の番」

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