山形霊園――帰れない墓参り

山形市を一望できる丘の上に、山形霊園はある。

昼間は静かで、墓地というより公園のような雰囲気さえある場所だ。

しかし、ある男性はこう話していた。

「夕方を過ぎてから、あそこには行かないほうがいい」

それは、数年前の秋のことだった。

男性は仕事帰り、亡くなった祖父の墓参りをするため、夕暮れ時に霊園を訪れた。

その日は少し到着が遅くなった。

空はすでに薄暗く、山形市街の明かりが少しずつ灯り始めていた。

墓前に花を供え、手を合わせる。

「じいちゃん、また来るから」

そう呟いて立ち上がった。

そのときだった。

――カン。

遠くで、墓石を叩いたような音がした。

男性は振り返った。

だが、誰もいない。

風の音だろうと思い、そのまま駐車場へ向かった。

ところが――。

歩いても歩いても、駐車場に着かない。

「……あれ?」

確かに来た道を戻っているはずなのに、見覚えのない墓が次々と現れる。

そして、一番奥に妙な墓を見つけた。

古びた墓石だった。

名前の部分は削られていて、読むことができない。

その墓の前に、一人の女性が立っていた。

黒い服を着て、背中を向けている。

男性は声をかけた。

「すみません……駐車場って、どっちですか?」

女性は答えない。

ただ、ゆっくりと墓石に手を置いた。

そして、小さな声で言った。

「……まだ帰れないの」

男性は背筋が凍った。

「え?」

女性が振り返る。

その顔を見た瞬間、男性は声を失った。

顔が――なかった。

目も、鼻も、口もない。

ただ真っ白な顔が、こちらを向いていた。

男性は夢中で走った。

墓石の間を抜け、転びそうになりながら坂を下りる。

すると突然――

目の前に駐車場が現れた。

車に飛び乗り、エンジンをかける。

バックミラーを見る。

誰もいない。

「……夢だったんだ」

そう自分に言い聞かせ、車を走らせた。

ところが、家に帰ってから気づいた。

助手席に、見覚えのないものが置かれていた。

白い花だった。

そして、その花には小さな紙が結びつけられていた。

震える手で紙を開く。

そこには、こう書かれていた。

――「次は、あなたが一緒に帰って」

男性は二度と山形霊園へ行かなかった。

だが、それから毎年、秋になると自宅の玄関先に白い花が一輪だけ置かれるという。

誰が置いたのかは、今も分からない。

そして不思議なことに――

その花は、どれだけ時間が経っても枯れないそうだ。

コメント