西甲府病院跡――誰もいない病室

山梨県に、かつて病院として使われていた建物があった。

現在ではその姿を見ることはできないが、そこには昔から、妙な噂が残っている。

「夜になると、誰もいないはずの病室からナースコールが鳴る」

そう聞いたのは、ある男性が友人と廃墟を訪れたときのことだった。

二人が建物の近くまで来たのは、日付が変わる少し前だった。

昼間に見ると、ただ古びた建物にしか見えない。

しかし夜になると雰囲気が一変した。

窓は黒く、建物の内部は完全な闇。

二人が懐中電灯を照らしながら中へ入ると、長い廊下が続いていた。

壁には、かつて病室だったことを思わせる跡が残っている。

そのときだった。

「……ピン」

廊下の奥から、小さな音がした。

二人は足を止めた。

もう一度。

「ピン……」

病院で使われていたような、ナースコールの音だった。

「誰かいるのか?」

友人が声をかけた。

返事はない。

それでも二人は音のした方向へ進んだ。

やがて、一つの病室の前にたどり着いた。

扉は半開きだった。

懐中電灯を向ける。

中には何もない。

古びた床と壁。

そして、壁の一部に残った古いナースコールの跡だけだった。

「気のせいだろ」

そう言って戻ろうとした瞬間――

背後から、

「ピン……」

また音がした。

二人が振り返る。

すると、さっきまで誰もいなかった病室の奥に、

白い人影が立っていた。

顔は見えない。

ただ、こちらを向いている。

二人は何も言わず、一目散に廊下を走った。

出口まであと少し。

そのとき、建物中から一斉に音が鳴り始めた。

「ピン……」

「ピン……」

「ピン……」

まるで、何十人もの患者が同時にナースコールを押しているようだった。

二人は振り返らず、建物の外へ飛び出した。

そして車に乗り込み、急いでその場を離れた。

翌日。

男性は撮影した写真を確認した。

すると、最後に撮った一枚だけがおかしかった。

暗い病室の写真。

その中央に、白い服を着た人物が立っている。

そして、その人物の横には、

もう一人。

さらにその奥にも、

何人もの人影が写っていた。

男性は慌てて写真を削除した。

しかし、それ以来だった。

夜、部屋で一人になると、

時々、どこからともなく聞こえてくる。

「ピン……」

まるで、今も誰かが、

誰もいない病室から助けを求めているかのように。

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