花見川――川沿いに立つ女
千葉県を流れる花見川。
昼間は散歩やジョギングをする人も多く、穏やかな雰囲気の川沿いだ。
しかし、夜になると様子が変わる。
これは、ある男性が数年前に体験したという話だ。
その男性は、仕事帰りに気分転換をするため、夜の花見川沿いを歩いていた。
時刻は午前0時を少し過ぎた頃。
辺りには人の姿がなく、聞こえるのは風に揺れる草の音と、遠くを走る車の音だけだった。
しばらく歩いていると、川岸の少し先に、一人の女性が立っていることに気づいた。
白っぽい服を着た女性だった。
こんな時間に一人で何をしているのだろう。
男性はそう思いながら、その女性の横を通り過ぎようとした。
その瞬間だった。
「……すみません」
背後から、小さな声が聞こえた。
男性が振り返る。
しかし、女性は何も言わず、川の方を向いたまま立っている。
聞き間違いだと思い、男性は再び歩き始めた。
すると今度は、すぐ耳元で、
「……私、見えていますか?」
そう囁かれた。
男性は驚いて振り返った。
そこには誰もいなかった。
女性が立っていた場所には、風で草が揺れているだけだった。
怖くなった男性は、急いでその場を離れた。
そして翌日。
気になった男性は、昨夜撮っていたスマートフォンの写真を確認した。
川沿いを歩きながら何気なく撮った一枚。
そこには、誰もいないはずの川岸に――
白い服を着た女性が、こちらを向いて立っていた。
しかも、写真の女性の顔は不自然なほど暗く、目だけがこちらを見ているように見えたという。
男性はその写真をすぐに削除した。
それ以来、夜の花見川には近づいていない。
そして地元では、夜の川沿いで、
「誰もいないはずなのに、後ろから女性の声が聞こえた」
という話が囁かれている。
もし夜の花見川を歩くことがあっても――
後ろから名前を呼ばれても、決して振り返ってはいけない。
その声の主が、本当に人間なのか。
確かめないほうがいいのかもしれない。
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