大谷資料館――地下から聞こえる足音

夜の大谷町には、昼間とはまるで違う空気が流れている。

観光客の姿が消え、周囲が静まり返ると、大谷資料館の巨大な石壁は、街灯の明かりを受けながら暗闇の中に浮かび上がる。

ある男性が、友人と大谷資料館を訪れたときのことだった。

その日は昼間に館内を見学したあと、周辺を歩いていた。

地下採掘場跡は、巨大な柱と壁がどこまでも続いているように見えた。

「ここ、夜に来たら相当怖そうだな」

男性がそう言うと、友人は笑った。

「じゃあ、夜に来てみる?」

冗談半分の約束だった。

その日の夜。

二人は資料館周辺まで戻ってきた。

もちろん、地下施設の中へ入るつもりはなかった。

ただ、周辺を歩いているだけだった。

すると――。

コツ……コツ……

どこからか、石を叩くような音が聞こえた。

二人は立ち止まった。

「今の音、聞こえた?」

耳を澄ます。

コツ……コツ……コツ……

今度は、はっきり聞こえた。

しかも音は、二人のいる場所へ少しずつ近づいている。

「誰かいるのかな」

そう言って懐中電灯を向ける。

しかし、そこには誰もいない。

ただ、大谷石の壁が暗闇の中に続いているだけだった。

二人は気味が悪くなり、その場を離れようとした。

その瞬間だった。

背後から、

「まだ、終わってない」

と、低い声が聞こえた。

二人は振り返った。

誰もいない。

だが、地面を見ると、奇妙なものが残っていた。

細かな石の粉が、暗闇の奥からこちらへ向かって一直線に続いている。

まるで誰かが、石を削りながら歩いてきたようだった。

怖くなった二人は、急いでその場を離れた。

翌日。

男性は、昨夜撮影した写真を確認した。

そこには、暗い石壁しか写っていなかった。

ところが、一枚だけおかしな写真があった。

巨大な柱の向こう側。

そこに、作業服を着た人影が立っていた。

顔は見えない。

手には、石を削るための道具を持っている。

そして、その人物の足元には――。

昨日聞いたものと同じ、細かな石の粉が大量に落ちていた。

男性は写真を消した。

しかし、その後も不思議なことが続いた。

夜になると、自宅の壁の向こうから、

コツ……コツ……

という音が聞こえるようになったという。

最初は気のせいだと思った。

だが、数日後。

音は壁の中からではなく、

自分の部屋のすぐ後ろ

から聞こえるようになった。

そして最後に、耳元でこう囁かれた。

「次は、こっちを掘る」

それ以来、男性は大谷町を訪れていない。

大谷資料館の地下には、長い年月をかけて人々が石を掘り続けてきた巨大な空間が残されている。

今も静まり返った石壁の向こうから、誰もいないはずの場所で、

コツ……コツ……

という音が聞こえてくる――。

そんな噂が、もし本当だったら。

あなたは、大谷資料館の地下を一人で歩けるだろうか。

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