首里城周辺に現れる「赤い着物の女」
夜の首里城周辺には、昼間とはまったく違う空気が流れる。
ある旅行者が、夜の首里城周辺を一人で歩いていた。
昼間に見た華やかな景色とは違い、石畳の道は静まり返り、遠くから聞こえる風の音だけが響いていた。
そのときだった。
「……すみません」
背後から、女の声がした。
振り返ると、少し離れた場所に女が立っていた。
赤い着物を着ている。
長い黒髪で顔はよく見えない。
旅行者が、
「どうしました?」
と声をかけると、女はゆっくり手を上げた。
そして、首里城とは反対方向にある暗い道を指差した。
「……あちらへ行ってください」
旅行者は不思議に思いながらも、言われた方向へ歩き始めた。
しかし、数歩進んだところで気がついた。
――足音が一つ多い。
自分の足音のほかに、
カツ……。
カツ……。
と、後ろから誰かが歩いてくる。
振り返る。
誰もいない。
また歩く。
カツ……。
カツ……。
今度は、すぐ後ろから聞こえた。
怖くなった旅行者は走り出した。
すると、前方に古い石門が見えてきた。
その瞬間――
「行ってはいけない」
耳元で女の声がした。
旅行者は驚いて振り返った。
そこには、さっきの赤い着物の女が立っていた。
今度は顔が見えた。
しかし――
その顔には、目も鼻も口もなかった。
ただ真っ白な顔だけが、暗闇の中に浮かんでいた。
旅行者は悲鳴を上げ、その場から逃げ出した。
翌朝。
昨夜撮影した写真を確認していると、奇妙なことに気がついた。
首里城を背景に撮った写真の一枚。
そこには、自分の後ろに赤い着物の女が立っていた。
だが、その写真を撮った場所は――
昨夜、誰もいなかったはずの場所だった。
さらに恐ろしいことに、その写真を拡大すると、女の口元だけがはっきり写っていた。
そして、そこにはこう書かれているように見えた。
「次は、あなたが案内する番」
それ以来、その旅行者は二度と首里城周辺を訪れることはなかったという。
ただ、地元で語られる噂では――
夜の石畳を歩いていると、今でも時々、
カツ……。
カツ……。
という、誰かの足音が後ろから聞こえてくるらしい。
そして振り返ってはいけない。
もし振り返ってしまったら――
そこには必ず、
赤い着物の女が立っている。
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