台原森林公園――「おい」と呼ぶ声

夜の台原森林公園は、昼間とはまるで別の場所だった。

木々に囲まれた遊歩道は、街のすぐ近くにあるとは思えないほど暗い。

その日、私は友人と二人で公園を歩いていた。

「思ったより暗いな」

友人がそう言った。

街灯はところどころにあるものの、木々が光を遮っている。

少し先に進むと、周囲から人の気配が完全に消えた。

聞こえるのは、風に揺れる木の葉の音だけ。

そのときだった。

「……おい」

後ろから男の声がした。

私たちは同時に振り返った。

誰もいない。

「今、聞こえたよな?」

友人が小声で言った。

「うん……男の声だった」

二人とも冗談を言える雰囲気ではなかった。

そのまま歩き続けることにした。

ところが、数十秒ほどすると、

「……おい」

また聞こえた。

今度は、はっきりと背後からだった。

振り返る。

やはり誰もいない。

「誰かいるんじゃないか?」

友人がスマートフォンのライトを照らした。

木々の間。

遊歩道の脇。

ベンチの下。

何もない。

すると――

「こっちに来い」

今度は、耳元で囁かれたように聞こえた。

友人が突然、私の腕を掴んだ。

「今……俺の横で言った?」

「違う。俺じゃない」

二人とも走り出した。

来た道を戻ろうとした、その瞬間。

前方の暗闇に、男が立っていた。

街灯の届かない場所。

顔は見えない。

ただ、こちらをじっと見ている。

「……人?」

私がそう呟いた瞬間、男が一歩こちらへ近づいた。

その腕が、異様な方向に曲がっていた。

人間の腕ではありえない角度だった。

そして男は、ゆっくり口を開いた。

「おい……」

私たちは夢中で逃げた。

振り返ることはできなかった。

ようやく公園の入口まで戻り、街灯の下で立ち止まった。

友人が息を切らしながら言った。

「……お前、さっきからずっと俺の後ろにいたよな?」

「うん」

「じゃあ……」

友人の顔から血の気が引いていた。

「俺の後ろを走ってた“もう一人”は、誰だったんだ?」

その言葉を聞いた瞬間。

私のスマートフォンが震えた。

画面を見る。

知らない番号から、一件の留守番電話が入っていた。

再生する。

ザー……という雑音。

その奥から、男の声が聞こえた。

「……おい」

そして最後に、

今度ははっきりと――

「まだ、森の中にいるぞ」

その瞬間、私たちは同時に振り返った。

誰もいなかった。

ただ、暗い遊歩道の奥から、

「……おい」

と、もう一度だけ声が聞こえた。

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