回復センター和歌山――夜の廊下
その建物は、昼間に見ると、どこにでもある静かな施設だった。
しかし、夜になると雰囲気が変わる。
周囲に人の気配はなく、建物の窓もほとんどが暗い。
ある夜、私は友人と二人で、その近くを通りかかった。
時計を見ると、午前一時を過ぎていた。
「もう帰ろうぜ」
そう言って車に戻ろうとした、そのときだった。
建物の中から、
カツ……カツ……
と、何かを引きずるような音が聞こえた。
「今の聞こえた?」
友人に聞くと、友人は黙ったまま建物を見ている。
音は一度止まった。
そして数秒後――
カツ……カツ……カツ……
今度は、はっきりと近づいてくる。
誰もいないはずなのに、建物の奥から廊下を歩いてくるような音だった。
私たちは怖くなり、その場を離れようとした。
ところが、友人が突然立ち止まった。
「……誰かいる」
見ると、暗い窓の向こうに人影が立っていた。
こちらを向いている。
顔までは見えない。
ただ、じっとこちらを見ているようだった。
「逃げよう」
そう言って車へ向かった瞬間――
背後から、
「まだ帰らないで」
と、小さな声が聞こえた。
振り返ることはできなかった。
車に乗り込み、急いでその場を離れた。
しばらく走ったところで、友人が震える声で言った。
「……さっきの声、俺たちの後ろからじゃなかった」
「じゃあ、どこから?」
友人はバックミラーを見ながら答えた。
「車の中から聞こえた」
その瞬間、二人とも言葉を失った。
誰も乗っていないはずの後部座席。
そこだけが、なぜか妙に暗く見えていた。
もちろん、これは回復センター和歌山にまつわる実話として確認された話ではなく、場所の雰囲気をもとにした創作怪談である。
それでも――
夜の静かな建物の前で、もし自分たち以外の「誰か」の気配を感じたら。
あなたなら、振り返るだろうか。
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