大阪砲兵工廠跡――夜の工場に残る足音

大阪城の近くには、かつて巨大な軍需工場が広がっていました。

大阪砲兵工廠。

戦争が終わってから長い年月が経った今も、当時の建物の一部や痕跡が残っています。

これは、ある男性が友人と二人で、その周辺を訪れたときの話です。

二人がそこを訪れたのは、夜の十時を過ぎた頃でした。

昼間とは違い、周囲には人の気配がほとんどありません。

街灯の明かりから少し離れると、古い建物の影が暗闇の中に浮かび上がっていました。

「ここ、本当に工場だったんだな……」

友人がそう呟いた直後でした。

カン……

遠くから、金属を叩くような音が聞こえました。

二人は顔を見合わせます。

カン……カン……

一定の間隔で、音が続いています。

「誰かいるんじゃないか?」

そう言って、二人は音のする方向へ歩き始めました。

しかし、近づくほど音は小さくなっていきます。

そして、ある古い建物の前まで来たところで、完全に聞こえなくなりました。

周囲を見回しても、人影はありません。

「気のせいだったのかな」

友人がそう言った瞬間。

背後から、

カン……

と、一度だけ金属音がしました。

二人が振り返ります。

そこには、誰もいません。

ただ、暗闇の中に古い建物が立っているだけでした。

そのとき、友人が突然黙り込みました。

「……今、見なかった?」

「何を?」

友人は建物の二階あたりを指差しました。

「あそこ……人が立ってた」

二人で目を凝らします。

窓のように見える黒い空間。

その中央に、確かに人のような影が立っているように見えました。

しかし、次の瞬間。

影はゆっくりと横へ動き、暗闇の中へ消えてしまいました。

「行こう」

友人の声が震えていました。

二人は急いでその場を離れようとしました。

ところが、数メートル歩いたところで、今度は背後から別の音が聞こえました。

カツ……

カツ……

硬い靴で床を歩くような音。

誰かが、二人の後ろを歩いています。

しかも、こちらが歩くと足音も近づいてきます。

二人が立ち止まる。

足音も止まる。

また歩く。

すると、

カツ……

カツ……

と、後ろからついてくる。

「振り返るな」

友人が小さな声で言いました。

二人は振り返らず、そのまま歩き続けました。

しかし、足音はどんどん近づいてきます。

カツ……

カツ……

カツ……

そして、耳元で突然、

「点検は終わったか」

と、男の低い声が聞こえました。

二人は思わず走り出しました。

振り返ることはできませんでした。

そのまま明るい道路まで逃げ、ようやく立ち止まった二人。

荒い息をしながら友人を見ると、顔が真っ青になっています。

「どうした?」

そう尋ねると、友人は震える手で自分の肩を指差しました。

そこには、黒っぽい手形が残っていました。

まるで、誰かに後ろから肩を掴まれたような形でした。

翌日。

二人は昨夜の出来事について調べました。

そこで知ったのは、この場所がかつて大量の兵器や軍需品を製造していた巨大な工場だったということでした。

そして友人は、最後にこう言いました。

「あの声……俺たちに言ったんじゃないと思う」

「じゃあ、誰に?」

友人はしばらく黙ってから答えました。

「たぶん、昔ここで働いていた誰かにだよ」

その日以来、二人は夜の大阪城周辺を歩くことはなくなりました。

そして今でも、静かな夜に金属を叩くような音を聞くと、あの夜のことを思い出すそうです。

カン……

カン……

まるで、長い年月が過ぎても終わることのない作業を続けるように――。

コメント