黒髪山の廃墟
深夜、友人の三人で黒髪山へ向かった。
山道をしばらく進むと、木々の隙間から古びた建物が見えてきた。
かつては人が暮らしていたのかもしれない。
しかし、今では窓ガラスは割れ、壁は黒ずみ、建物全体が森に飲み込まれようとしていた。
「ここ……本当に誰もいないよな?」
そう言いながら、懐中電灯を廃墟の中へ向ける。
その瞬間だった。
――コン。
建物の奥から、何かを叩くような音が聞こえた。
三人とも黙り込んだ。
「風じゃない?」
そう言って笑ったものの、誰も先へ進もうとはしなかった。
結局、意を決して中へ入る。
廊下には古い家具が散乱し、床には大量の埃が積もっていた。
そして一番奥の部屋に入ったとき、壁に奇妙なものを見つけた。
そこには、無数の手形が残されていた。
しかも不思議なことに、その手形はすべて――
部屋の中央を向いていた。
「……これ、誰かがここに立ってたってこと?」
友人がそう呟いた直後。
背後から、
「……帰らないの?」
女の声がした。
三人が同時に振り返る。
誰もいない。
廊下には、さっきまで何もなかったはずだった。
だが、床を見ると……。
埃の上に、裸足の足跡が残っていた。
一つ。
また一つ。
その足跡は廊下から部屋へ向かって続いている。
そして最後の一歩だけが、三人の目の前で止まっていた。
「逃げよう!」
そう叫んで出口へ走った。
ところが、何度ドアを開けても、なぜか同じ部屋に戻ってしまう。
三人は完全にパニックになった。
そのとき、一人が壁を指差した。
さっきまで何もなかった壁に、新しい文字が浮かんでいた。
「ひとりだけ、残って」
そして――
背後から、また女の声が聞こえた。
「……誰にする?」
三人は一斉に走り出した。
その後、どうやって廃墟から出たのか、誰もはっきり覚えていない。
ただ一つだけ、奇妙なことがあった。
帰宅してから撮影した写真を確認すると、三人で写っているはずの写真の隅に、知らない女が立っていた。
しかも、その女は笑っていた。
そして写真の裏には、いつの間にか小さな文字が書かれていた。
「ひとり、置いてきたよ」
三人は顔を見合わせた。
その瞬間、全員が同じことに気づいた。
――帰ってきたのは、本当に三人だったのだろうか。
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